『アガルタのイオリ』も残りあと4話になりました。
終わりが見えてきて、ちょっとさびしい気持ちになっています。
今回妖精ルークが移動魔法「移動祝祭日」を使ってイオリのピンチを救います。
この魔法名はヘミングウェイの自伝小説『移動祝祭日』から拝借しました。
ヘミングウェイがまだ無名だった二十代の日々を過ごした1920年代のパリを回想した小説です。
第一次世界大戦直後で、まだ第二次世界大戦が始まる前、世にいうベルエポック時代の古き良きパリです。
日本のアーティストがパリへの憧れを口にするとき、彼らがもっともイメージするのがこの時代のパリであろうと思います。
読んだのはだいぶ昔で細部は忘れましたが、一つ強烈に覚えているエピソードがあります。
当時パリにはスコット・フィッツジェラルドも滞在していました。
のちに『華麗なるギャツビー』を書き、わが国の村上春樹に絶大な影響を与えたあのフィッツジェラルドです。
フィッツジェラルドとヘミングウェイは仲良くなります。
ナイーブなフィッツジェラルドはマッチョなヘミングウェイを成功の象徴と見なしていました。
兄貴分と慕ったのでしょう。
フィッツジェラルドは妻ゼルダとともに暮らしていました。
才気あふれる美人妻のゼルダとフィッツジェラルドの仲は、あまりよくありませんでした。
フィッツジェラルドは自分の性的な弱さが不仲の原因ではないかとヘミングウェイに相談します。
相談されたヘミングウェイはトイレにフィッツジェラルドを連れて行き、局部を見せろといいます。
フィッツジェラルドのものを見たヘミングウェイは
「問題ない。ゼルダは意地悪なだけだ」
といいフィッツジェラルドはホッと安堵したそうです……
このエピソードを強烈に覚えています。
こんなことが本当にあったのでしょうか?
フィッツジェラルドは若くして亡くなったので確かめようがありません。
友人の恥部を暴露(?)したヘミングウェイのふるまいに正直首をかしげますが、しかしこの本の巻頭にあるヘミングウェイの言葉はたいへんいいものです。
もし、あなたが幸運にも、青年時代をパリで過ごしたことがあるならば、あなたが残りの人生をどこで暮らそうとも、パリはあなたについて回るだろう。
なぜなら、パリは移動祝祭日だからだ。
これは老人が自分の青春時代を振り返り、懐かしんでいるのが伝わるいい文章です。
『移動祝祭日』はヘミングウェイの遺作です。
この作品を発表することなく、ヘミングウェイは猟銃自殺を遂げました。
文豪の目に最期に見えたのはキューバの海……いや、やはりパリでの日々であったろうと自分は思います。
Paris 1920s in color [60fps, Remastered] w/sound design added
https://www.youtube.com/watch?v=mgVl6Yk4itw
『アガルタのイオリ』第120話 秘剣と夢
https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792439977172102