KADOKAWA Group

森新児

@morisinji
2018年6月27日に登録

歴史・時代・伝奇
ホラー

morisinji

8月21日
『アガルタのイオリ』第77話　深作欣二の映画『魔界転生』
すいません。今回ブルックが魔法『魔界転生』を使います。この魔法名は以前も登場しましたが今回を真正とし、以前の魔法名は別の名前に変更いたします（すでに変更済みです）。山田風太郎の『魔界転生』についてはもう何度も書いているので、今回は映画版『魔界転生』について少し。山田風太郎は原作者として映画の試写会に招かれましたが、途中で帰ったそうです。自分の原作とストーリーがかなりちがうのが不満だったのでしょう。山風が帰ったと聞いた監督の深作欣二はどんな気分だったでしょう？その後も山風が亡くなるまで、この映画について語っているのを見た記憶はありません。山風の不満はよくわかります。しかしこの映画もまた傑作です。当時歌手として、また俳優として絶頂期にあった沢田研二の妖しい魅力。そして生涯の当たり役となる柳生十兵衛を演じる千葉真一のかっこっよさ。最後の千葉真一と若山富三郎の「炎の中の殺陣」は伝説になっています。あのシーンは映画館で見て、高校生の自分は本当に燃えました！深作欣二が亡くなり、自分が撮った映画のベストワンにあげていたのが『魔界転生』と知りました。「『仁義なき戦い』じゃないんだ？」と意外であり、しかし納得感もありました。魔界転生には当時若手の真田広之も出ていました。真田と沢田研二のキスシーンで館内に女性の歓声があがったのを覚えています。その後も深作は真田広之をしばしば自分の映画に起用しました。「深作は真田に惚れてるな（黒澤明が三船敏郎に惚れたように）」と思ったものですが、たぶん深作は沢田研二にも惚れていたと思います（苦笑）。深作欣二は役者に惚れるといい仕事をするタイプの監督だったのでしょう。「自分のベストは『魔界転生』」という言葉に、その資質の一端が現れていると推察します。下に張った動画で千葉真一（柳生十兵衛）と若山富三郎（柳生宗矩）の父子対決をご覧になれます。炎はCGではなく本物です。今では絶対できない撮影で殺陣もすごいです。ぜひご覧ください。炎の中の親子の決闘。鬼気迫る若山富三郎と全身魔除けの梵字で迎え撃つ千葉真一！見事な立ち回りは最大の見せ場！【魔界転生】1981年　千葉真一　若山富三郎 https://www.youtube.com/watch?v=ZsTcLpGhvQk 『アガルタのイオリ』第77話　白い天使 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437503889599
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8月20日
『アガルタのイオリ』第76話　新東宝の映画『セクシー地帯』とスケッチ教室
今回「山猫の町」といわれる山岳地帯の色町を書きました。この色町に意外にもスケッチ教室があります。ブルックは「みんな芸術好きだね」と感心しますが、イオリは「あれは裸の女を見るのが目的だ」とそっけなく語ります。これは元ネタがあります。戦後の日本にもスケッチ教室があって紳士（？）がそこに集り、絵を描きながら（あるいは描くふりをしながら）女性のヌードを愉しんだ……という故事を確か吉行淳之介の小説で読みました。本当にそんな風俗があったの？　と思っていたら、新東宝の映画『セクシー地帯』にスケッチ教室が登場し、それを見て実在を確認しました。下に張った動画にスケッチ教室がチラッと登場します。映画自体も面白いものなので、未見のかたはぜひ。セクシー地帯　予告編(英題：Sexy Line Trailer) https://www.youtube.com/watch?v=2bmRMOpsziQ 『アガルタのイオリ』第76話　山猫の町 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437503529592
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8月19日
『アガルタのイオリ』第75話　レイ・ハリーハウゼンのクリーチャー
今回カミの眷属リヴァイアサン（巨大なウミヘビ）と聖獣セピア（巨大なイカ）の格闘シーンを書きました。この場面では子どものころよく見たストップモーションの巨匠レイ・ハリーハウゼンのクリーチャーを意識しました。自分はハリーハウゼンのクリーチャーの造形とカクカクした動きがむかしから大好きです。「あの感じ」を表現したかったのですが、どうだったでしょう。ハリーハウゼンのクリーチャーは下に張った動画でご覧になれます。黄金の航海　レイ・ハリーハウゼン https://www.youtube.com/watch?v=LVYpuQcT3Ao&t=24s 『アガルタのイオリ』第75話　聖なる色セピア https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437373941799
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8月18日
『アガルタのイオリ』第74話　モーツァルトのレクイエム
今回剣士の大会が終わって、敗れた剣士たちのその後を書きました。死んだ剣士にささげる音楽は、やはりレクイエムがふさわしいでしょう。レクイエムといえばモーツァルトなのでひさしぶりに聴きました。哀感があるのは当然ですが勇壮な調べもあって、動画のコメントにも「魂が盛り上がる」というユニークな評がありました。「そうなんだよな。レクイエムといえども悲しいだけじゃダメなんだ。おれの小説はそこのところが単調だよなあ」と思ってしまいました。 Mozart Requiem モーツァルトレクイエム高音質 https://www.youtube.com/watch?v=kAu5wHdQ7-8&list=WL&index=1 『アガルタのイオリ』第74話　敗れざる者 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437248216269
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8月17日
『アガルタのイオリ』第73話　黒澤明『椿三十郎』の決闘シーン
今回イオリとジェイムズの決勝戦を書きました。最後の決闘は黒澤明の『椿三十郎』を意識しました。下に張った動画で映画の決闘シーンをご覧になれます。あの有名なアクションに少しでも近づければいいのですが。黒澤明監督「椿三十郎」最後のセリフがいい https://www.youtube.com/watch?v=_8wtYKJs3u4 『アガルタのイオリ』第73話　戦う理由 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437189834595
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8月16日
『アガルタのイオリ』第72話　開高健の傑作短編『岸辺の祭り』
今回ジェイムズが『歩く影たち』という魔法を使います。相手の影に移動する魔法で、この名前は開高健の短編集『歩く影たち』から拝借しました。この短編集に『岸辺の祭り』という一編があります。時代はベトナム戦争の真っ最中で、主人公はサイゴンで取材中の新聞記者久瀬。久瀬は田中という自転車のパンク修理で生計を立てながらアジアを旅している少年を連れ、正月の休戦期間に最前線へ向かう。休戦中の前線で米軍は楽隊を組み、村々を回って宣撫活動を行う（この宣撫活動が祭りのようでタイトルになっている）。正月ということもあって村人は陽気に米兵を迎えるが、楽隊を組織したシーグラム大尉（傑物）は「こんな小さな子がタンク（戦車）をふっとばすんですからね」と久瀬に語る。休戦期間が終わりに近づき、前線に緊張が立ち込める。久瀬は捕虜収容所で出会ったヴェトコンからの転向者との会話を思い出し、革命者が反革命者に、反革命者が革命者に殺される内戦の法則を思い「革命。革革命。革革革命。革革……」とつぶやく…… シーグラム大尉の楽隊が、村で聖者来たりなば＝聖者の行進を演奏します。陽気なメロディで自分も大好きな曲ですが、これが黒人たちのレクイエムで葬式の帰りに演奏されたと聞くと、また一味ちがった感想が湧いてきます。聖者の行進 https://www.youtube.com/watch?v=ocBPBTvNYOk 『アガルタのイオリ』第72話　お楽しみはこれからだ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437126813325
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8月15日
『アガルタのイオリ』第71話　ビートルズの『ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア』
今回タイトルになった『ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア』はビートルズの楽曲です。ポール・マッカートニーの作曲で、ポールは「ビートルズの中でもっとも気に入っている曲」といっています。実際すばらしい曲で、完成直後ジョン・レノンが「すばらしい曲だ。このアルバム（リボルバー）の中で一番好きだ」と語ってポールを感激させたエピソードも有名です。「疲れた人の心を癒すのにこれ以上の曲はない」と確信して、今回選曲しました。曲の特徴はジョン、ポール、ジョージのハーモニーでしょう。神がかった美しさで、ポールは当時ビートルズとライバル関係にあったビーチ・ボーイズを意識してこのハーモニーを作ったそうです。自分の作品ではブルックがリードボーカルでクロがギターを弾きながらハーモニーを添えるのですが、ここはもっとうまく書きたかった…… ビートルズのハーモニーの美しさについては、下に張った動画でご確認ください。 The Beatles - Here, There and Everywhere https://www.youtube.com/watch?v=FusIKjztap8&list=RDFusIKjztap8&start_radio=1 『アガルタのイオリ』第71話　ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437064742723
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8月14日
『アガルタのイオリ』第70話　鷲の鳴き声
今回のタイトル「ネクラーソフ家の終焉」はポーの小説『アッシャー家の崩壊』を意識しました。最初はこちらも「～崩壊」にしようかと思いましたが、「崩壊とはちがうな」と思い直し「終焉」にしました。今回鷲が鳴く場面を書きました。自分は猛禽類は甲高い声で鳴くイメージがありましたが、調べてみると案外そうでもないようです。下に張った動画のハクトウワシの鳴き声が、自分がイメージした「鷲の鳴き声」にもっとも近かったです。ぜひご覧ください。 20120715-01 ハクトウワシの鳴き声 https://www.youtube.com/watch?v=hv4707_BggQ 『アガルタのイオリ』第70話　ネクラーソフ家の終焉 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792437001812905
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8月13日
『アガルタのイオリ』第69話　映画『白痴』と『バルタザールどこへ行く』
今回アレクセイが始末剣【白痴】を使います。白痴はドストエフスキーの小説で、そのタイトルを技名に拝借しました。重度のてんかん症状を持つ純粋無垢な青年ムイシュキン公爵を巡る愛憎劇……が白痴のプロットですが、最初に読んだときストーリーがよくわかりませんでした。黒澤明の映画『白痴』を見て、ようやくストーリーの概略を把握しました。映画ではムイシュキン（現代のキリスト）を森雅之、ロゴージン（罪と罰におけるスヴィドリガイロフ的怪人キャラ）を三船敏郎、ナスターシャ（罪と罰のソーニャとはだいぶ違う白木葉子的ヒロイン）を原節子が演じています。今は亡き銀座の並木座で見たのは懐かしい思い出です。巨匠ロベール・ブレッソンの映画『バルタザールどこへ行く』の主役であるロバのバルタザールもキリストのメタファーとよく評されます。「現代に甦ったキリスト」を描いた映画として、バルタザール～と白痴が2トップであろうと個人的に思っています。『アガルタのイオリ』第69話　不知火丸対不知火丸 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436932926741
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8月12日
『アガルタのイオリ』第68話　タイトル回収回とエミネム
今回はタイトル回収回になりました。『アガルタのイオリ』と口にするのは漫画家志望の少年フリオです。たぶんこの作品で一番作者である自分に似ているキャラはフリオだと思います。だから今回は書いていてなかなかしんどいものがありました。「才なき者は夢ではなく鏡を見よ」と女神がいっていますが、それができたら苦労はありません（苦笑）。夢見ることは時に罪なのかもしれません。フリオはその罰を受けました。「それでもフリオは勝ったんだ」作者としてはそう思いたいです。ラッパーのエミネムはたぶん最後のアメリカン・ドリームの体現者です。ラッパーとして若くして大成功を収めたキャリアもそうですが、おそらく多くの若者の心をとらえたのは彼の生い立ちにあると思います。トレーラーハウス育ちの極貧層。母親からの壮絶な虐待。意識を失ったこともあるほどのイジメ。プロになってからも白人であるがゆえの逆差別にあう（エミネムをプロデュースしたドクタードレ―が「やつの目は青い＝白人の世話を焼くのか？」と脅された）。などさまざまな負の要因を吹っ飛ばしての出世物語に世界中の若者が見入られるのも無理ありません。もちろんエミネムは天才です。それも超が三つつくぐらいの。ビート＝BGMを聴いて瞬時に完成したリリック（歌詞）が浮かぶ異様な言語センス。驚異的なラップのスピード（代表曲の『ラップ・ゴッド』を聴くとその速さに呆れます）。そしてあまりいわれませんが物語作家としての腕前もたいへんなものです。代表曲『スタン』はエミネムの熱狂的ファンをモデルにした三幕劇ですが、その年のもっとも優れた短編小説に送られるOヘンリー賞を受賞してもまったくおかしくない完璧な出来栄えです。とくにクラシックな構成力がすごい！映画『8mile』はエミネムが自身の若き日を演じた自伝劇で、これも世界中で大ヒットしました。映画の中でほんの一瞬ですが、金がないエミネムがバスの中で、メモ帳代わりにてのひらにリリックを書く場面があります。印象的なシーンでこれが映画のキーアートになっています。が、たぶんこれは事実ではなく、映画的なフィクションでしょう（苦笑）。でもいい場面です。フリオがメモ帳に鉛筆を走らせ、イオリとアンナの決闘をスケッチする場面を書きながら、このシーンを思い出しました。映画「８マイル（8MILE）」日本版予告 https://www.youtube.com/watch?v=4Y0vDuvKNkk 『アガルタのイオリ』第68話　アガルタのイオリ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436856613122
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8月11日
『アガルタのイオリ』第67話　諸星大二郎の『暗黒神話』
今回登場する魔法【暗黒神話】は諸星大二郎の漫画のタイトルから拝借しました。魔法や必殺技の名前は「小説」から借りる、という縛りを設けていましたが、今回ばかりは例外とさせていただきます。『暗黒神話』が時空を超えた物語で、今回の魔法の特性にこれ以上ないくらいぴったりのタイトルだからです。『暗黒神話』については以前も近況ノートで紹介しましたが、ユーチューブにアニメのフルムービーがアップされています。原作に忠実なすばらしい出来栄えのアニメですので、未見のかたはぜひご覧ください。暗黒神話1　餓鬼の章640x480 https://www.youtube.com/watch?v=t7es-BcYDxg&t=2s 暗黒神話2　天の章640x480 https://www.youtube.com/watch?v=WnvYgweWVdk&t=4s 『アガルタのイオリ』第67話　暗黒神話 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436854634974
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8月10日
『アガルタのイオリ』第66話　霞（かすみ）の構えと映画『キル・ビル』
今回のタイトルは「罪と罰」ですが、この作品についてはすでにあれこれ語っていますので、今回は劇中に登場する【霞（かすみ）の構え】について解説します。「アレクセイは不知火丸の刃を上にして、顔の間近で構えました。手を交差させて柄を持ち、逆さにした刃をドストエフスキーに向かってまっすぐ突き出します」これが劇中で描写された霞の構えですが、みなさんの目に構えが絵として浮かびましたでしょうか？かなりややこしい構え方なので動画を探しました。下に張った映画『キル・ビル』のアクションシーンで、主人公のユマ・サーマンが殺し屋集団相手に最初に見せる構え、「あれ」です！あれが霞の構えです。ちなみに『アガルタのイオリ』を書くにあたっていろんなチャンバラ映画を見て『キル・ビル』も見ました。正直チャンバラ自体は刀技というよりカンフーに近い感じであまり参考になりませんでした。でもタランティーノの演出は面白かったです。「西洋の人はチャンバラに静的な間や美しさは求めず、血と苦痛を強調する演出をする」と思いました。だから必然的にチャンバラ場面の印象がホラーに近くなります。それは同監督の『ジャンゴ』を見たときも感じました。ガンファイトの印象がアクションではなくホラーでした。そこらへんもぜひ下の動画でご確認ください。 Limbs Fly and Swords Slice: The Bride vs the Crazy 88 – Kill Bill | CLIP ⚡ 4K https://www.youtube.com/watch?v=jTZHmk2Q8HA 『アガルタのイオリ』第66話　罪と罰 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436750482560
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8月9日
『アガルタのイオリ』第65話　あゝ無情とレ・ミゼラブル
今回のタイトル『あゝ無情』はヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル』の邦題です。原題は「悲惨な人々」で、邦題は黒岩涙香の翻案小説のタイトルです。原題から少し離れていますが、いいタイトルです。『あゝ無情』は最初の有名なエピソード「長期間刑務所に入っていた中年男のジャン・バルジャンが出所後教会へ行く。ジャンは司教の銀食器を盗んで逃げる。ジャンはすぐ逮捕されるが司教は食器は彼へのプレゼントと警察にいってジャンは釈放される。さらに司教は残りの銀の燭台も与える。人間不信のかたまりだったジャンは感激して改心する……」が強烈でした。ジャンは一種の超人ですから、正直子どもとしてはあんまり魅力を感じませんでした。自分が惹かれたのは司教のほうです。もちろんジャンのような超人性は皆無ですが、子どもなりに自分の獣性を自覚していて、この獣性を癒すには「司教のような人に会うしかない」と思ったからです。子どもなりに救いを求めていたのだと思います。結局司教のような人物に、自分の人生では会えませんでした。が「司教とジャン・バルジャンが出会ったときのような話を書くことはできる（はず）」「いや書かねばならない」「読者は関係ない。自分の魂を救うために」そう思って日々駄文を書いております。映画『レ・ミゼラブル』予告編 https://www.youtube.com/watch?v=VoCGLi82O7I 『アガルタのイオリ』第65話　あゝ無情 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436628120685
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8月8日
『アガルタのイオリ』第64話　レンブラントの『夜警』
今回アンナ・レンブラントという女盗賊が登場します。彼女のファミリーネームは画家のレンブラントから拝借しました。といっても自分は絵のことはまったくわかりません。レンブラントの絵も有名な『夜警』しか知りません。いかにもドラマチックな感じでかっこいい絵です。また夜警たちが腰にレイピアをさしているのは、アンナのキャラのヒントになりました。『夜警』については下の動画で解説されています。ものすごくおもしろい動画ですのでみなさんもぜひご覧ください。レンブラント「夜警」不気味な少女の正体を追え！【山田五郎が解説】 https://www.youtube.com/watch?v=-U8ogp9S-ag&t=671s 『アガルタのイオリ』第64話　レイピアの使い手 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436565184179
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8月7日
『アガルタのイオリ』第63話　ヘミングウェイの『日はまた昇る』
今回タイトルにした『日はまた昇る』はヘミングウェイの処女長編で、自分が一番好きなヘミングウェイの小説です。スケールの大きい一種の私小説で、若きヘミングウェイが滞在したパリでの日々が主題です。ヘミングウェイはこの作品をヨーロッパ滞在中に書きあげました。現在進行形の体験を間髪入れずに書いたのです。これはすごいことです。地震の真っ最中に地震のようすを書くような行為で、これは余人にはまねできません。超人的な体力、そして人を人と思わない強烈なエゴを持っていなければ、こういう芸当は不可能です。とくにストーリーはありません。要約するのが難しい小説で「失われた世代（ヘミングウェイやフィッツジェラルドをさす）の虚無感が現れている」という批評をよく聞きます。自分が覚えているのは主人公のジェイク・バーンズ（ヘミングウェイ自身がモデル）の友人が「英国人は週に二日も休むんだぜ」と愚痴をこぼす場面です。この小説が書かれたのは1920年代ですが、このころ英国はすでに週休二日制が普及し、アメリカはまだそうではなかったことが伺えて面白いです。詩人の萩原朔太郎が「フランスに行きたしと思えども、フランスはあまりに遠し」といいましたが、そんな日本人にとって遥かな憧れだった遠いフランスやヨーロッパが生き生きと描かれていて、そこが好きでした。もしかしたらヘミングウェイが書いたのは「もう一つのベルエポック」で、かつて田舎の少年が憧れたフランスやヨーロッパは、21世紀の現在もはやないでしょう。『日はまた昇る』を読むと、そんな哀感も感じます。『アガルタのイオリ』第63話　日はまた昇る https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436498078572
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8月6日
『アガルタのイオリ』第62話　『罪と罰』顛末記
今回【剣豪】ドストエフスキーが必殺技を振るいます。その名を【罪と罰】といいます。自分はドストエフスキーの小説で『罪と罰』がいちばん好きで「これは絶対外せない！」と思って草稿を書いたのですが…… 『文豪スレイドッグス』というたいへん・ものすごく・とてつもない人気アニメがあります。『アガルタのイオリ』を書き始めて、ある日ふと（本当にふと）文豪～の第一話を見たら、太宰が『人間失格』という異能を使っているではありませんか。それを見て、背中に冷たい汗が流れました。すでに書き進めていた自分の作品『アガルタのイオリ』でも、剣士たちが小説のタイトルから拝借した名前の必殺技を使うからです。「パクリと思われる……」そう考えて一時は執筆を断念しようかとさえ考えました。実は太宰の『人間失格』も必殺技の名前に考えていたのです！が文豪～をよく見たら登場するのが太宰とか中島敦とか戦前戦中、あるいは大正期の日本作家が多く、「よし！　こっちはその時代の作家を避け、それからなるだけ海外作品の名前を借りよう！」と決意し執筆を続けました。たぶんあちらさまの異能と、こちらの必殺技でかぶる名前はない、と思っていたのですが…… ある日ふと（やっぱりふと）気になって文豪～のウィキペディアを見ました。自分の小説にドストエフスキーが登場するからそのための確認です。「まさかあちらさまにドストエフスキーは出ないよな……出るんだ……でもまさか『罪と罰』を使ったりはしないよな……使うんだ」そこから苦悩の日々が始まりました。一時は罪と罰をあきらめ、二番目に好きな『白痴』にしようと思いました。が「白痴じゃ全然意味が通じない」と考え直しました。自分の罪と罰には一応意味があってそれは「剣聖（ドストエフスキー）と戦う身の程知らずの【罪】を犯した者が、愛剣を折られる【罰】を受ける」というものです。あちら（文豪スレイドッグス）の罪と罰の意味はわかりません。ともかく「やっぱり罪と罰でいく！」と決意し、今回の決闘シーンになりました。以上が自分の『罪と罰』顛末記であります。ちなみに太宰の『人間失格』は使用をあきらめましたが、『斜陽』と『御伽草紙』はすでに劇中に登場しています。『アガルタのイオリ』第62話　剣士たちの群像 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436370295047
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8月5日
『アガルタのイオリ』第61話　「二次創作の天才」太宰治とマイケル・バッファー
本日投稿の61話で『アガルタのイオリ』は折り返し地点を迎えました。あと半分、全力で突っ走るのでなにとぞ最後までお付き合いください！今回ジェイムズが使った魔法【御伽草紙】は太宰治の短編集『御伽草紙』から名前を拝借しました。日本の昔話を太宰流に翻案した短編集で、戦争中の太宰の創作の頂点と評価されています。この「元ネタを太宰流に翻案する」という点を「相手の元ネタ＝魔法を盗んで自家薬籠中の物にする」と自己流に解釈し、魔法の名前としました。この短編集に限らず太宰は二次創作の天才です。『御伽草紙』は日本の昔話、『駈込み訴え』は聖書、『走れメロス』はシラーの戯曲とそれぞれ元ネタがあります。太宰は現在の同人文化の偉大な先駆けだったのかもしれません。今回ジミー・バッファーというイベントアナウンサーが登場します。これは有名なリングアナウンサー、ジミー・レノン・ジュニアとマイケル・バッファーの名前を合わせたものです。下に張った動画でマイケル・バッファーのリングアナウンスをご覧になれます。パッキャオ戦のリングで、かの有名な「Lets Get Ready To Rumble」のコールもあります。 Michael Buffer Introduction https://www.youtube.com/watch?v=IkjEpNLkRNQ 『アガルタのイオリ』第61話　魔法【御伽草紙】 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436310752845
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8月4日
『アガルタのイオリ』第60話　夏の甲子園の開会式
明日61話で『アガルタのイオリ』は物語の折り返し地点を迎えます。なにとぞ最後までお付き合いください！今回剣士の大会デュエルカップの開会式を書きました。この大会には大陸中のユニークな強豪剣士が集まり、互いの命と名誉を懸けて覇を競います。『アガルタのイオリ』中盤のクライマックスとなるパートと自負します。今回開会式を書くにあたって自分が参考にしたのは、夏の高校野球甲子園大会の開会式です。あの盛りあがりというか、聖性というか、悲壮感のようなものを表現したかったのですが……やはり難しいです。下に張った動画で甲子園の開会式をご覧になれます。第87回（2005年）の開会式で、あの田中将大投手擁する駒大苫小牧が優勝した大会です。ぜひご覧ください。第87回夏の甲子園入場行進 https://www.youtube.com/watch?v=m2uROF1k3O4&t=361s 『アガルタのイオリ』第60話　剣士の大会デュエルカップ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436249308534
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8月3日
『アガルタのイオリ』第59話　諸星大二郎の傑作短編『ぼくとフリオと校庭で』
今回赤い帽子をかぶった少年フリオが登場します。フリオはブルック一行に先行して街道を旅したメッセンジャーで、漫画家志望でもあります。このフリオの名前は諸星大二郎の短編漫画『ぼくとフリオと校庭で』から拝借しました。小学生の「ぼく」は夕日に照らされた校庭で転校生のフリオと遊ぶ。フリオはオカルト好きな奇妙な少年で「UFOが自分を迎えにくる」という。もちろんぼくは信じない。夕焼けの町を二人はぶらつく。出稼ぎ労務者の父親と二人暮らしのフリオは大人びたところがあって、防空壕でタバコを吸ったりぼくにエロ本を見せたりする。それから二人は大きな川（荒川？）へ行く。土手の向こうに三本にも四本にも見えるお化け煙突がある。フリオは防空壕で「ここを出たらここと似てるけど全然別の世界に出ることもある。川向こうの煙突の数が変わることもある」といって、ぼくに「それは目の錯覚」とからかわれる。川に着いたらフリオは石を投げながら河原へ降りる。ぼくは土手を歩いて川向こうの煙突を見る。もうすぐ四本に見える、はずなのに煙突はいつまでたっても三本のまま。へんだなあ、とぼくが思っていると、土手をはさんだ反対側のバス停にフリオと父親がいる。「わい、転校するのいやや」とごねるフリオを土手の上から見て、ぼくは混乱する。河原にもフリオがいるからだ。「フーちゃん」と声をかけながら河原へ降りると、ふと見上げた夕焼け空に小さくUFOが浮かんでいる。こわくなったぼくは急いで防空壕へ戻ってランドセルを取り戻し、家へ帰る。翌日フリオが転校したと先生が告げる。放課後ぼくは急いで昨日の川へ向かう。向かう途中ぼくはUFOに乗り込む父子と、バス停でバスに乗る父子を幻視する。結局ぼくは川へは行かない。放課後ぼくは一人で鉄棒にぶらさがり「あの角を曲がっていたらフリオに会えただろうか」と思いながら夕焼け空を見上げる…… 短編の名手諸星大二郎の作品の中でも一二を争う傑作と思います。ジュブナイルものとしても屈指の出来で、少年期の不安定な心理をこれほど細やかに描いた作品はほかにないでしょう。この漫画のタイトルはポール・サイモンの曲『僕とフリオと校庭で』から借りたと諸星大二郎がいっています。下に張った動画で曲をお聴きになれます。ギターと口笛が軽快な楽しい曲です。漫画とは作風がちがう感じですがぜひご一聴ください。ポール・サイモン Paul Simon／僕とフリオと校庭で Me and Julio Down by the Schoolyard（1972年） https://www.youtube.com/watch?v=EY05OtHRX54&list=RDEY05OtHRX54&start_radio=1 『アガルタのイオリ』第59話　港町【怠惰】 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436187723539
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8月2日
『アガルタのイオリ』第58話　ロシア革命と『戦艦ポチョムキン』
今回架空の国カラミル帝国で起きた革命を書きました。カラミル帝国は帝政ロシアをモデルにした国で、劇中の革命もロシア革命を模しました。自分がロシア革命を意識したのは学生時代高田馬場のミニシアターで見た映画『戦艦ポチョムキン』が最初でした。ロシア第一革命のさい起きた戦艦ポチョムキンの反乱を描いたソ連映画です。革命の正当性を訴えたプロパガンダ映画で、とくに前半はその政治的主張が強すぎて正直辟易しました。が後半有名な「オデッサの階段」に衝撃を受け、ラストの黒海艦隊出動に燃えました。アクション作家としてのエイゼンシュテイン監督の面目躍如というべき名シーンの連続で「黒澤明がもっとも尊敬したエイゼンシュテインとはこれか」と感じ入りました。アクション作家としてのエイゼンシュテインの才能が、政治によって十分開花しなかったのは残念です。オデッサがウクライナの港湾都市で、革命や第二次大戦のさい戦闘の最前線となって多くの犠牲者が出たことを最近知りました。オデッサは今も戦場です。下に張った動画は『戦艦ポチョムキン』のフルムービーです。未見のかたはぜひご覧ください。戦艦ポチョムキン（日本語字幕＋活弁字幕） https://www.youtube.com/watch?v=AyBaMzBjr0c&t=108s 『アガルタのイオリ』第58話　皇帝のギロチン https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792436059531541
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8月1日
『アガルタのイオリ』第57話　ドストエフスキーの処刑未遂体験
今回【剣豪】ドストエフスキーが刑務所で死刑直前の窮地に追いこまれるエピソードを書きました。これは【文豪】ドストエフスキーの実体験をほぼ忠実になぞったエピソードです。インテリの地下サークルに参加していた28歳のフョードル・ドストエフスキーは、帝国政府に対する危険分子として仲間とともに逮捕され、死刑判決を受けます。死刑方法は銃殺で、あと数分で処刑、というとき突然使者が現れ「皇帝陛下の恩赦で死刑は中止になった」と宣言します。ギリギリのところで助かったドストエフスキーはこのあとシベリアに流刑され、そこで四年間過ごします。この死刑未遂体験とシベリア流刑体験が、ドストエフスキーを誰もが知るドストエフスキーにしたといえます。ちなみにこのときドストエフスキーのシベリア流刑はすでに決まっていて、ドストエフスキーになされた死刑執行のカウントダウンは「刑務官の悪戯だった（！）」というのが定説です。まったく理解不可能な、度が過ぎる悪戯です。実際ドストエフスキーが犯したとされる罪も本当は大したものではなく、逮捕自体が茶番だったという説も有力です。がこの悪戯がドストエフスキーを歴史に残る大文豪にしたといえるのだから、作家というのは因果なものです。若いころよく「自分がドストエフスキーと同じ体験をしたら作家になれるかな？」と考えました。がどう考えても精神的な廃人か、極悪な犯罪者になった自分しか想像できませんでした。廃人にも犯罪者にもならなかったドストエフスキーの精神力は超人的ですが、それを支える体力も見逃せません。ドストエフスキーの小説を読んでいると、ロシア人特有のスタミナに圧倒されることがよくあります。あのスタミナを自分も手に入れたい……と思うのですが、こればっかりは無理ですね（苦笑）。『アガルタのイオリ』第57話　ドストエフスキーと最後の審判 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435976578517
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7月31日
『アガルタのイオリ』第56話　『罪と罰』と刑事コロンボ
今回ソーニャという女性が登場します。これは『罪と罰』のヒロインソーニャの名前を臆面もなく拝借しました。『罪と罰』のもっとも有名な翻案は『刑事コロンボ』でしょう。物語が犯人（ラスコーリニコフ）の視点で始まるところはまさにコロンボのドラマと同じです。そして一見冴えない判事ポルフィーリーが秀才ラスコーリニコフを徐々においつめる……というストーリーの骨格は、ほぼそのままドラマに踏襲されています。さらに読者（視聴者）がポルフィーリーやコロンボよりも犯人に同情し応援するところも同じです。小説とドラマの最大のちがいはドラマには犯人を転向させるきっかけとなる救いの女神ソーニャや、犯人に啓示を与える怪人スヴィドリガイロフのようなキャラが登場しない点にあると思われます。ソーニャもですが、とくに怪人スヴィドリガイロフは『罪と罰』の肝となる人物です。こんな怪人はドストエフスキーにしか書けません！　実は「『アガルタのイオリ』でおれのスヴィドリガイロフを書く！」というひそかな野心があったのですが……このことはいずれまた書きます。下に張った動画は刑事コロンボのテーマ曲です。ひさしぶりに聴きましたが、やはり名曲ですね。刑事コロンボ／ヘンリー・マンシーニ https://www.youtube.com/watch?v=j3W7C0kC6nw&list=RDj3W7C0kC6nw&start_radio=1 『アガルタのイオリ』第56話　継母と息子 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435872445964
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7月30日
『アガルタのイオリ』第55話　ジェイムズ・M・ケインという作家
今回ブルックの兄ジェイムズが登場します。数年前に死んだはずの兄の登場にブルックは動揺しますが、この兄の名前はアメリカの作家ジェイムズ・M・ケインから拝借しました。ケインの代表作は『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』です。ケインの小説デビュー作ですが、自分はこの作品にものすごく影響を受けました。自分は十代で読んだ三つの作品に現在に至るまで重大な影響を受けていて、それは魔界転生罪と罰郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らすの三つです。この三作品はぜひ作中で魔法の名前に使いたくて、魔界転生と罪と罰は成功しましたが、郵便配達夫～は残念ながらうまく使えませんでした。実は湖の怪獣カイザーの登場シーンで鳴り響く謎の鐘の音、あれ元々は【郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす】という魔法だったのです…… で魔法に使えなかったので、登場人物の名前に作者名を拝借しました。自分は何十年にもわたって小説を一人称で書いてきました。自分と同世代の物書きが一人称を使うとき、その影響元はほぼ村上春樹かレイモンド・チャンドラーでした。ジェイムズ・M・ケインがきっかけで一人称に取りつかれたのは、自分のほかにあんまりいないと思います。とにかく影響というより呪いに近く、これを祓うのに数十年（！）もかかりました。作家に影響を受けるのも考えものです。おれはあいつを両腕に抱きしめ、口をあいつの口にぐりぐり押しつけた…… 「咬んで、あたしを！　咬んで！」咬んでやった。唇に深く歯を当てると、おれの口の中に血がほとばしりでた。あいつを階上に運んで行くとき、血が首すじをつたった。（小鷹信光訳　ハヤカワ文庫P19）十代の少年には強烈なシーンで、あっさりノックアウトされました。なんとも皮肉で物悲しいラストも胸に染みました。下に張った動画は1981年公開の映画の予告編です。この映画も傑作でした。「最後のニューシネマ」といえる作品です。 The Postman Always Rings Twice (1981) ORIGINAL TRAILER https://www.youtube.com/watch?v=a_b0lBzVyd8 『アガルタのイオリ』第55話　わが兄ジェイムズ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435813202844
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7月29日
『アガルタのイオリ』第54話　「虎の穴」と梶原一騎
今回伝説の老剣豪ヴィクトル・ドストエフスキーが登場します。この名前はもちろん文豪ドストエフスキーから拝借しました。ドストエフスキーについては後日改めて語ります。今回ドストエフスキーの道場が登場しますが、その名前は通称「虎の穴」といいます。この名前は子どものころ見たアニメ『タイガーマスク』から拝借しました。虎の穴は悪役レスラーの養成機関で、ここで厳しい修業を積んで、主人公伊達直人はタイガーマスクになります。「虎の穴」もそうですが、梶原一騎のネーミングセンスは天才的です。星飛雄馬、矢吹丈、伊達直人……と名前を並べるだけで、彼らが主人公以外の何者でもないことがわかります。また星飛雄馬は理想主義者、矢吹丈は風が吹きすさぶ環境で生きてきた孤独な若者、伊達直人は高潔で貴族的……と字面だけで性格がうかがえます。ライバルの花形満や力石徹はまぎれもない強豪の風格をたたえたいい名前ですが、しかし「主人公ではない」と一発でわかる名前でもあります。要するに名前に物語があります。名前に意味を持たせる作家はたくさんいますが、名前に物語を持たせる作家は、梶原一騎のほかにあんまりいないと思います。下に張った動画はタイガーマスクのエンディング曲です。暗鬱なメロディで暗鬱な歌詞ですが、なにを書いても最後は悲劇になる梶原一騎に、もっともふさわしい曲かもしれません。【アニメ】タイガーマスク　END https://www.youtube.com/watch?v=N13qzkWERCo&list=RDN13qzkWERCo&start_radio=1 『アガルタのイオリ』第54話　虎の穴 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435750375634
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7月28日
『アガルタのイオリ』第53話　軍馬のトレーニング
今回グレイとブルーという馬が登場します。下に張った動画は戦前の軍馬のトレーニング風景です。日本の騎兵隊の訓練で貴重なものです。これで自分は「軍馬」というものを少し理解しました。お暇なかたはぜひご覧ください。【全篇】『馬の馴致』1932年｜「フィルムは記録する」より ‘Film IS a Document: NFAJ Historic Film Portal’ https://www.youtube.com/watch?v=MVu4IEc32SY 『アガルタのイオリ』第53話　グレイとブルー https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435689805964
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7月27日
『アガルタのイオリ』第52話　鷲巣晶さんから『少年呪術師』のレビューをいただきました！
昨日鷲巣晶さんから『少年呪術師』のすばらしいレビューをいただきました！『少年呪術師』は自分の前作で、全81話およそ27万文字の長編です。 2016年に発生した大地震直後の熊本を舞台にしたアクション伝奇ホラーです。およそ三年前に完結した作品にレビューをもらえるだけでもうれしいのに、さらに「カクヨムの呪術廻戦」という過分な言葉もいただいて舞いあがっております。鷲巣さん、本当にありがとうございます。大げさではなく、作者である自分の魂はこのレビューで救われました。みなさんもこちらのレビュー、ぜひお読みください。カクヨムの呪術廻戦　鷲巣晶 https://kakuyomu.jp/works/16816927862154935100/reviews/16818792437306101320 今回イオリの宿命のライバルになる女剣士マリア・バタイユが登場します。マリアのファミリーネームはフランスの作家で哲学者ジョルジュ・バタイユから拝借しました。バタイユの本は若いころ有名な『眼球譚』をはじめ数冊読んだだけですが、とにかくこの人が「超ヤバい人」であるのはわかりました。思考のスケールが巨大で、暴力やエロスを語るときも道徳や宗教に忖度することはまったくありません。現代作家でこの人に比肩するスケールをたたえた作家は一人もいません。特に【悪】を描かせたら無敵で、この点においてバタイユに匹敵する作家はマルキ・ド・サドぐらいしかいないでしょう。ポリコレに抑圧され、自主規制が内面化した現代の読者はこわがるような作風です。バタイユが第二次大戦中パリで秘密結社アセファル（無頭人）を結成し、それにパリ留学中の岡本太郎も参加したといったエピソードにも惹かれました。ちなみにアセファルとはどういう団体だったのかは、調べてもよくわかりません。とにかく謎めいた人物です。バタイユが持っていたミステリアスで巨大なヤバさ、それに悪にひるまない豪胆さを、わがマリアにぜひとも体現させたいと思います。『アガルタのイオリ』第52話　「一緒の時を、生きれたね」 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435624740733
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7月26日
『アガルタのイオリ』第51話　映画『用心棒』の決闘
今回は作中最大というか、もっともはちゃめちゃなアクション回になりました。「たった一人の剣士が百人の騎兵隊を倒すにはどうすればよいか？」をさんざん考えた結果、こうなりました。もしかしたら怒る人もいるかもしれませんが、ファンタジーということでご容赦ください。「一対多数」の殺陣で世界的にもっとも有名なのは『用心棒』のラストの決闘でしょう。三船敏郎の用心棒と、仲代達矢率いるヤクザ軍団が対決します。下に張った動画で決闘をご覧になれます。著作権の関係でマカロニウェスタンのBGMがついていますが、これはこれで悪くないです。こういう緊張感と格調と哀愁まで感じさせる決闘シーンを、本作でも書いてみたいです。 Yojimbo re-dubbed with A Fistful of Dollars Score https://www.youtube.com/watch?v=nU0R8nMepkU 『アガルタのイオリ』第51話　丘を越えて行こうよ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435501945052
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7月25日
『アガルタのイオリ』第50話　リベロとはなにか？
今日は記念となる50話を投稿しました！今回バベル大帝国の騎兵部隊がブルック一行を襲います。その騎兵隊の中に「リベロ」と呼ばれる二人の騎士がいます。これは作中における騎兵隊の軍事用語で「馬の扱いが得意で騎乗に優れ、さらになんらかの特殊技能を持つ騎士を、帝国は『リベロ』と呼び特権を与えた。戦闘が始まったら隊長の指令を待たず、リベロは自由に動くことができる」という設定にしました。これはもちろんサッカーから思いついたアイディアです。サッカーやラグビーが戦争をモデルに発達したスポーツであるのはよく知られていますが、今回はその逆パターンでサッカーの戦術を軍事に応用してみました。リベロはイタリア語で自由を意味する言葉で、サッカーにおいては「主に守備を務めるが、局面に応じて自由に攻撃にも参加する選手」をさす言葉として使われます。リベロというと、自分の世代は先日紹介した西ドイツのベッケンバウアーを思い出します。下に張った動画でリベロおよびベッケンバウアーについて詳しくわかります。お暇なかたはぜひ。ベッケンバウアーがドイツで最も偉大な選手だとよくわかる動画！ワールドカップ伝説のスーパープレイ集ドイツ代表バイエルン・ミュンヘンブンデスリーガ【海外サッカー] https://www.youtube.com/watch?v=mbLmOa1cPFU 『アガルタのイオリ』第50話　二人のリベロ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818792435441071721
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7月24日
『アガルタのイオリ』第49話　ヘミングウェイと『ミッシェル』
すいません、またミスしてしまいました。今回カミと契約したアンヌが魔法を使います。その魔法名は【心臓が二つある大きな川】です。ヘミングウェイの有名な短編から拝借した名前ですが、最初本文のほうに『二つの心臓がある大きな川』と書いてしまいました。これで意味は通りますが表記ぶれです。気づいてすぐ修正しましたが、二日続けてのミスに落ち込んでおります。どうもすいません…… 『心臓が二つある大きな川』はヘミングウェイの代表的短編です。ヘミングウェイの分身ともいえる青年ニック・アダムスが大きな川で鱒釣りをする……ただそれだけの話ですが、心癒されるものがあります。第一次世界大戦に兵士として参加し、心身ともに傷ついたヘミングウェイが釣りを通じて回復した体験がベースにあるそうで、自然と触れ合う作者の喜びが伝わってくるような佳品です。幼少期から親しんだ釣りで回復する→ノスタルジーに癒される、という連想からノスタルジーの怪物の魔法にふさわしいと考え、今回名前を拝借しました。ちなみに『心臓が二つある大きな川』という奇妙なタイトルの意味は、調べてもよくわかりませんでした。たぶん（これいうと絶対怒られるが）ヘミングウェイ自身もよくわかってないと思います（笑）。今回ブルックが幻の母にビートルズの『ミッシェル』をリクエストする場面があります。ブルックの声は若き日のジョン・レノンに似ていますが、彼の好みはポール・マッカートニーの甘いバラードのようです。『ミッシェル』は下の動画でお聴きになれます。お暇なかたはぜひ。あしたは記念の（？）50話です。最近悲しい話が続きましたが、あしたは【満を持してのアクション回】です！ Michelle (Remastered 2009) https://www.youtube.com/watch?v=WoBLi5eE-wY&list=RDWoBLi5eE-wY&start_radio=1 『アガルタのイオリ』第49話　ノスタルジーの怪物 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177787662526
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7月23日
『アガルタのイオリ』第48話　すいません、大ミスやらかしました！
すいません！今回大ミスをやらかしました。今回のタイトルは初め『大きな心臓の二つの川』としていましたが、正解は【心臓が二つある大きな川】です。これはヘミングウェイの有名な短編のタイトルですが、うろ覚えで拝借してついっさっき「もしや」と調べて自分の大ミスに気づきました。すでに本編は訂正済みです。ヘミングウェイの短編についてはあすご紹介いたします。たいへん申しわけありません！『アガルタのイオリ』第48話　大きな心臓の二つの川改め【心臓が二つある大きな川】 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177721153655
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7月22日
『アガルタのイオリ』第47話　千年後のビートルズ
今回ブルック王子が死んだジョゼ・ノアに捧げるレクイエムとしてビートルズの『イエスタデイ』を歌います。『アガルタのイオリ』は「現代の文明社会が滅んで千年後の世界」という設定です。あらゆるデータは消滅していて作品世界の人間に、古代文明の記憶はほとんどありません。で、そんな社会に音楽が残るとしたらどういう形で残るだろう？　と考えました。レコード、CD、カセットテープ、MD、といった録音媒体はすべて消えているでしょう。「残るとしたら紙に書いた楽譜の音楽だけだろうな」と考え、作中でもそのようにしました。ブルックがビートルズを知っていたのは、亡き母がビートルズの楽譜をたくさん持っていて、子守歌代わりにビートルズの曲を歌ってくれたからです。『イエスタデイ』はおそらくビートルズのもっとも有名な曲です。下に張った動画で演奏をご覧になれます。この曲をポールは「夢で聴いた」と語っています。どんな形であれ、千年の時を越えて残る完璧なメロディと確信します。この時期（二十代初頭）のポールは本当に息をするように毎日名曲を書いていました。『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』はジョン・レノンの最高傑作といわれる曲です。作中ではこの曲を風の妖精シビルに捧げています。ポールが華麗にアレンジした完成版も最高ですが、下に張った動画は未発表のtake1バージョンです。完成版よりこっちのほうがジョンの歌声がクリアに聴こえます。二十代はじめのころのジョンの歌声は無敵でした。ワイルドで甘く切ない、歴史的にも類例がない歌声です。たぶんポールはジョンの【声】に惚れたと思います。ジョンの歌声のオーラが、ドラッグの影響で二十代半ばにはもう失われたのは残念です。これは個人的偏見ですが、ジョンとポールを比較して、千年後に多く残るのはポールの曲と思います。ジョンの最大の武器は【声】で、これがないと曲の魅力も半減するからです。ちなみにブルックの歌声はジョンによく似ています。 Yesterday (With Spoken Word Intro / Live From Studio 50, New York City / 1965) https://www.youtube.com/watch?v=wXTJBr9tt8Q&list=WL&index=2 Strawberry Fields Forever (Take 1) Pitch Corrected https://www.youtube.com/watch?v=wplc_irvkL8&list=RDwplc_irvkL8&start_radio=1 『アガルタのイオリ』第47話　レクイエムはイエスタデイ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177654084609
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7月21日
『アガルタのイオリ』第46話　アニメ『デビルマン』の妖獣ララ
今回は悲しいエピソードになりました。二話続けての悲劇で、書き手の自分もしょんぼりしています。今回登場する風の妖精シビルにはモデルがいます。アニメの『デビルマン』に出てくる妖獣ララです。ララはデーモン一族の悪魔ですが、おっちょこちょいな娘で主人公の不動明に惚れて付きまとうようになります。コメディリリーフとして視聴者を楽しませてくれましたが、最期は敵のデーモンの炎を浴びて焼死します。自分はアニメをリアルタイムで見ましたが、ララの死にはずいぶんショックを受けました。「バカは死ななきゃ治らない」という言葉がありますが、ララの死を悲しむ明の前に幻のララが現れ「わたしは死んだからもうバカじゃないの」と明るく語る場面は子ども心に哀切なものがありました。放送当時テレビ局に「なぜララを殺した！」と抗議の電話が殺到したしたそうですが、その気持ちよくわかります。下に張ったダイジェスト動画でララの活躍をご覧になれます。お暇なかたはぜひ。 Lala - Valid (DEVILKICK re-upload) https://www.youtube.com/watch?v=tt4_Mg8gV5U&list=WL&index=4&t=307s 『アガルタのイオリ』第46話　風の妖精シビル https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177530824059
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7月20日
『アガルタのイオリ』第45話　少女が見た風景
今回は自分でも思い入れのあるエピソードでした。ジョゼという少女がいろいろ不幸な目にあいますが、自分は「無垢なものは無垢であるがゆえに救われない」という妙な確信があります。ジョゼはその確信を擬人化した存在です。ジョゼは最期に夢を見ます。ジョゼが見たのは洒落た石畳の街並ですが、19世紀前半の西洋都市をイメージしました。下に張った動画は1899年のニューヨークの風景です。ジョゼが夢見たのも、こんな風景だったかもしれません。 New York c.1899: Restored To Life in Amazing Footage https://www.youtube.com/watch?v=UERgaTAPKb4 『アガルタのイオリ』第45話「夢が叶った」 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177478134303
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7月19日
『アガルタのイオリ』第44話　ブラフマンは諸星大二郎『暗黒神話』で知りました
今回「ブラフマン」と名乗る悪魔が登場します。本作のブラフマンはカミの眷属という設定です。古代文明を滅ぼす際先頭に立って暴れた、いわばカミの眷属最強の武闘派です。もちろん本来のブラフマンの意味は全然ちがいます。ブラフマンはヒンズー教の概念です。手もとにある『ヒンズー教の本』（学研）によると「自分という存在の本質とは何か、自分を取り巻く大いなるものの正体とは何か――。インド人は、この果てしない形而上の議論を極限レヴェルにまでおし進めてきた。そして、永遠に存続する個人の本体（アートマン）と宇宙の根本原理（ブラフマン）を発見し、それが同一であると悟り切った。ここから、さまざまな秩序や法則が、智慧の輪によって、一挙に連結されていったのだ」　『梵（ブラフマン）と我（アートマン）』よりということです。難しい文章ですが「宇宙と個人は同一である」というのがインド哲学の根本原理なのは、なんとなくわかります。自分は諸星大二郎の『暗黒神話』を読んでブラフマンやアートマンを知りました。さてひさしぶりに『暗黒神話』を読もうか、と書架をさがすとこれが見つからない。がっかりして何気なくユーチューブで検索したら、なんと『暗黒神話』のフルムービーがアップされていました！自分はこの漫画がアニメになっていることさえ知りませんでした。今日1と2を両方見ましたが、どちらも原作に忠実なすばらしい出来栄えです。お暇なかたはぜひご覧ください。暗黒神話1　餓鬼の章640x480 https://www.youtube.com/watch?v=t7es-BcYDxg&list=WL&index=2 暗黒神話2　天の章640x480 https://www.youtube.com/watch?v=WnvYgweWVdk&list=WL&index=1 『アガルタのイオリ』第44話　ティラノサウルス・ガリミムス・ブラフマン https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177408441437
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7月18日
『アガルタのイオリ』第43話　田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』
今回「黒シャツのジョゼ」というキャラが登場します。このキャラの名前は田辺聖子さんの小説『ジョゼと虎と魚たち』から拝借しました。が、すいません！　自分はこの小説を読んでいません。読んでいないのにこんなことをいうのはあれですが「いい名前だなあ」と何年も前から憧れていて、今回思い入れのある女の子キャラの名前に「これしかない！」と使うことにしました。実は最初に【ジョバンニ】という名前を考えたのですが「……いや、やっぱこの名前はまずい」と、すぐに考えを改めました（苦笑）。この作品が池脇千鶴さん主演で実写映画になっているのは知っていましたが、アニメになっていたのは知りませんでした。下に張った動画でアニメのPVをご覧になれます。お暇なかたはぜひ。アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』ロングPV https://www.youtube.com/watch?v=UqroXVubLzI 『アガルタのイオリ』第43話　黒シャツのジョゼ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177343122522
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7月17日
『アガルタのイオリ』第42話　ロバート・アルドリッチとジャック・ロンドン
今回登場する剣士リー・アルドリッジが【白い牙】という剣法を使います。これはジャック・ロンドンの同名小説のタイトルを拝借しました。なぜこのタイトルを借りたのか？これはちょっとややこしい話になります。まずアルドリッジの名前は映画監督の「ロバート・アルドリッチ」から思いつきました。個人的にたいへん好きな監督で『飛べ！フェニックス』『特攻大作戦』『カリフォルニア・ドールズ』など好きな作品を無数にあげられます。中でもアルドリッチの最高傑作は『北国の帝王』と思います。これは列車に無賃乗車するホーボー（浮浪者）と鉄道の車掌の死闘（本当にすさまじい死闘！）を描いた骨太のアクション映画です。とにかくホーボー役のリー・マーヴィンと車掌役のアーネスト・ボーグナインがすごい。演技力もすごいが二人とも顔がすごい！というわけで最初はアルドリッジの剣法の名前を『北国の帝王』にしようかと考えました。しかし「魔法や剣法の名前は【小説】からつける」という縛りを自分で考えたので、これはできません。であれこれ考えているうちにジャック・ロンドンを思い出しました。なぜ思い出したのかというと、ジャック・ロンドンも若いころホーボーとして全米を放浪した体験があるからです。ロンドンが自分のホーボー体験を綴った自伝はめちゃくちゃおもしろいのでおすすめです。『ジャック・ロンドン放浪記』というタイトルです。おそらくこの本が『北国の帝王』の元ネタではないか？　と自分は考えます。リー・アルドリッジ→ロバート・アルドリッチ→北国の帝王→ホーボー→ジャック・ロンドンときて、ここでようやく『白い牙』を思い出しました。『白い牙』はロンドンの代表作です。犬の血が混じったオオカミが最後に人間と仲良くなる話で、この作品が有名なのでロンドンは優しい自然派作家と思われがちですが、むしろロンドンの著作としては『野生の呼び声』とともに異色作のような気もします。下に張った動画で『北国の帝王』の予告編をご覧になれます。お暇なかたはぜひ。『北国の帝王（Emperor of the North Pole）』予告編 Trailer 1973年 https://www.youtube.com/watch?v=uQhaGGeIf-g 『アガルタのイオリ』第42話　リー・アルドリッジと赤い痣 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177278631866
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7月16日
『アガルタのイオリ』第41話　『花と蛇』は団鬼六の大河SM小説です
今回主人公イオリの宿命のライバルマリア・バタイユが登場します。そのマリアの必殺技の一つが【斬首剣・花と蛇】です。初めて技をマスターしたときバラの花とヘビの頭を同時に斬り飛ばしたところからついた名前ですが、もちろん団鬼六の大河SM小説『花と蛇』も意識しました。大富豪の令夫人遠山静子が卑劣なヤクザに誘拐され、陵辱の限りを尽くされる…… というのが『花と蛇』の基本のプロットで、とくにストーリーはありません。 SMシーンが延々と続きますが、団鬼六の特徴を一言でいうと「とにかく文章がうまい！」ということに尽きます。団鬼六が若いころはまだ性表現への規制が厳しく、うっかり書き過ぎると雑誌が発禁になるおそれがありました。それで団鬼六は修辞（レトリック）の限りを尽くし「性場面を読者に想像させる」テクニックを習得しました。『花と蛇』でもあからさまな描写はほぼありません。ハードな場面は山ほどありますが、描写は細密なものではなく、あくまで読者の想像力にまかせる手法が最初から最後まで徹底的に取られています。そのものズバリの描写がないので物足りなく感じる読者もいるかもしれません。たとえば……とここで引用しようかと思いましたが、やっぱりやめておきましょう（苦笑）。自分が子どものころはまだポルノの敷居が高く、『花と蛇』も名のみ高くて、実物を見ることはなかなかできませんでした。それが自分が大学一年のころ、『花と蛇』が突如角川文庫に収録される事件が発生しました。「あのアンダーグラウンドの奇書が文庫に！」と若者は騒然となりました。実際本屋で筒井康隆や栗本薫のような人気作家と並んで『花と蛇』が置かれているのを見たときは感動しました。夢野久作の『ドグラ・マグラ』が米倉斉加年の強烈な装丁で角川文庫入りしたのもそのころだったと思います。あのころの角川文庫は輝いていました。 ……いえ、もちろん今も輝いています（笑）。『アガルタのイオリ』第41話　花と蛇 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622177209341995
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7月15日
『アガルタのイオリ』第40話　『芽むしり仔撃ち』は大江健三郎の傑作です
今回のタイトル『芽むしり仔撃ち』は大江健三郎が東大在学中に書いた傑作小説から拝借しました。大江の小説は「閉鎖空間に閉じ込められた少年たち」の物語です。自分の小説で魔法使いの女性が辿った「優れた腕を持ちながら生まれた町から逃れられない運命」と、少年たちの運命が似ている気がして、今回タイトルを拝借しました。『芽むしり仔撃ち』は大江の最高傑作です。今の若者は大江の人気が「現代のアイドル並みにすさまじかった」と聞いてもピンとこないと思いますが、その熱狂はほぼ芽むしり～が呼び起したものです。戦争中の物語です。少年院にいた十五人の少年は空襲が激しくなったので、安全な村へ移動します。山奥にある村につくとそこで原因不明の疾病が流行り、村人たちは村を出て行く。取り残された少年たちは突然出現したユートピアを満喫するが…… 24歳でこれを書いたのだから、なんだかんだいっても大江は天才です。演出や展開は全然ちがいますが、「閉ざされた空間で少年たちが悪戦苦闘する」というプロットは、のちの『バトル・ロワイアル』をはじめとするデスゲームものに強い影響を与えたと思います。が、大江のピークはここまででした。早熟というのも考えものです。『芽むしり仔撃ち』の冒頭の文章は「夜更けに仲間の少年の二人が脱走したので、夜明けになっても僕らは出発しなかった」というものです。物語の幕開けに「僕らは出発しなかった」と書くところが、いかにも大江健三郎らしいです。そしてちょっと胸が痛くなります。自分の若いころを思い出すからです。『アガルタのイオリ』第40話　芽むしり仔撃ち https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176987769060
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7月14日
『アガルタのイオリ』第39話　ウルトラセブン最後の激闘
今回のタイトルは『叶えられた祈り』ですが、アメリカの文豪トルーマン・カポーティにも同じタイトルの小説があります。しかし今回はまったく偶然の一致で、自分はカポーティの小説を読んだことがありません。いえ、はるかむかしに一つだけ読んだことがあるのですが、タイトルを忘れました。それぐらい自分にとって縁遠い作家なのです。それに正直「文豪かなあ？」という気もします（苦笑）。今回人間と怪獣の戦いに決着がつきます。自分はヒーローと怪獣の死力を尽くした戦いというと、真っ先にウルトラセブンの最終回を思い出します。今回はセブンの感動的な激闘を目標に書いたのですが、やはり難しいです。下に張った動画でセブンの最後の戦いをご覧になれます。お暇なかたはぜひ。「ウルトラセブン」最終回#3 最後の戦い https://www.youtube.com/watch?v=2agN2KLw2Q4 『アガルタのイオリ』第39話　叶えられた祈り https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176987559469
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7月13日
『アガルタのイオリ』第38話　ゴジラと伊福部昭
今回も怪獣カイザーと人間の死闘が続きます。子どものころ長い休みの間、映画館で怪獣映画を見るのが好きでした。もちろん特撮を楽しむわけですが、同時に音楽を聴くのも楽しみでした。「怪獣映画をこんな風に楽しむのは自分だけだろうな」と思っていたら、大人になって同好の士がたくさんいるのを知りました。伊福部昭という作曲家の名前を知ったのも大人になってからです。下に張った動画で一作目のゴジラ（1954）の音楽を聴くことができます。この巨大生物の哀感すらたたえたテーマがなかったら、ゴジラが永遠のクラシックになることはなかったと思います。伊福部昭-ゴジラ（1954） https://www.youtube.com/watch?v=f_WuEozpFiE&list=RDf_WuEozpFiE&start_radio=1 『アガルタのイオリ』第38話　湖畔の死闘 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176949678754
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7月12日
『アガルタのイオリ』第37話　カイザー（皇帝）フランツ・ベッケンバウアーのこと
今回「カイザー」という名前の怪獣が登場します。昨日までギャンブルシーンを書きましたが、子どものころからウルトラマンやゴジラが好きだった自分は「怪獣も絶対書きたい！」と思っていました。今回その念願がついに叶いました。カイザーはドイツ語で「皇帝」という意味です。自分が子どものころ活躍した西ドイツのサッカー選手フランツ・ベッケンバウアーのあだ名がカイザー（皇帝）でした。怪獣の名前にふさわしくないかもしれませんが、今回このあだ名を拝借しました。ベッケンバウアーのプレースタイルはエレガントで、怪獣のような荒々しさはありません。自分が小さいころはまだサッカーは不人気で、ベッケンバウアーの「リベロ」というポジションもよく理解できませんでした。ベッケンバウアーのプレーを見るたび「この人ポジションはどこだろう？」と戸惑ったのを覚えています。下に張った動画でベッケンバウアーのプレーをご覧になれます。お暇なかたはぜひご覧ください。ベッケンバウアー皇帝と呼ばれた男のスーパープレイ集！バイエルン・ミュンヘンドイツ代表【サッカーゴール】Legend https://www.youtube.com/watch?v=mVuzXLhyzz0 『アガルタのイオリ』第37話　湖の怪獣カイザー https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176949401907
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7月11日
『アガルタのイオリ』第36話　映画『スティング』のポーカー勝負
今回クロとラーズの丁半博打が決着します。昨日ギャンブル小説（ホラー小説？）の名作『南から来た男』を紹介しましたが、映画にもギャンブルを扱った名作がたくさんあります。自分が特に好きなのは『スティング』です。恩人をマフィアのボスに殺された若い詐欺師がベテラン詐欺師と手を組み、ボスをはめて大金を奪う……というストーリーです。競馬を使った大規模な詐欺で、とにかく手が込んでいて見ていて最高に楽しいです。二人の詐欺師がボスに近づく最初のきっかけは、ベテラン詐欺師のポール・ニューマンが列車内でボスとポーカーで勝負したことでした。最後に一対一の勝負になり、イカサマで手札をそろえたボスが勝った気分でカードを示すと、負けたはずのニューマンのカードがボスを上回る手になっている！ニューマンがいつの間にか手札をすり替えたのです。ここは胸がすくような名場面ですが、『麻雀放浪記』の阿佐田哲也（色川武大）が「小説だったらなぜこうなったか（いつの間に手札がすり替わったか？）を説明しなければならないから、こんな鮮やかに表現できない」と嘆いていたのを覚えています。下に張った動画でニューマンとボス役のロバート・ショウのポーカー勝負をご覧になれます。お暇なかたはぜひ。 The Sting | Paul Newman Cons a Con Man in a High-Stakes Poker Game in 4K HDR https://www.youtube.com/watch?v=_mrNhIxOGzw 『アガルタのイオリ』第36話　壺の中身は https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176884609008
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7月10日
『アガルタのイオリ』第35話　ギャンブル物の最高峰『南から来た男』について
今回ブルック一行が湖畔の町で博打を行います。「博打場面は絶対書きたい！」と前からずっと思っていました。で、なぜそう思ったんだろう？　と考えました。まず阿佐田哲也『麻雀放浪記』の影響は絶大です。しかし自分は麻雀のルールがわからないし、正直にいうと阿佐田哲也名義の作品より、本名の色川武大名義の作品のほうが好きでもあります。じゃあなんの影響だろう？　と考えていたらロアルド・ダールの『南から来た男』を思い出しました。子どものころ読んだこのホラーすれすれの短編の印象が強烈で「どうしてもギャンブルを書いてみたくなった」というのが真相のようです。「私」と老人がプールサイドで憩っていると、プールから上がった若いアメリカ人の水兵と彼のガールフレンドがやってくる。老人が葉巻をくわえると「火をつけましょう」と水兵の青年がライター（たぶんジッポのオイルライター）を差し出す。風が強いと老人がいうと、青年は大丈夫という。「ナルホド、ウン、ナルホド。これが必ず火がつくという有名なライター？　そうですね？」老人は青年を賭けに誘う。老人のホテルの部屋で、青年がこのライターで十回続けて火をつけられるか、賭けようというのだ。青年が勝ったらキャディラックをやると老人はいう。逆に老人が勝ったら（青年が十回続けて火をつけられなかったら）、老人は「青年の左手の小指」をもらうという！「どんなものって、アンタの、その左手の小指だよ」ここで作品のスイッチが唐突に入る…… またしても手前みそになりますが、以前連載していた『森新児の読書感想文』で『南から来た男』について詳細に述べています。かなり生硬な文章ですが、お暇なかたはそちらもお読みくださるとうれしいです。『森新児の読書感想文』第7話　ロアルド・ダール　南から来た男 https://kakuyomu.jp/works/16817139557415374770/episodes/16817139558055432031 『アガルタのイオリ』第35話　湖畔の町で博打を https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176883815547
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7月9日
『アガルタのイオリ』第34話　『陽だまりの詩』は乙一さんの傑作短編です
今回クロが治癒魔法【陽だまりの詩《シ》】を使います。これは乙一さんの小説『ZOO』に収録された短編『陽だまりの詩《シ》』から名前を拝借しました。女性ロボットが目覚める。彼女を作った「彼」は自分が死んだら墓へ埋葬してほしいと彼女に頼む。疾病で世界中の人間は自分以外ほとんど死滅していると彼はいう。ロボットの彼女に心はなく、最初に目にした鳥の死体を彼女は無造作に森の奥へ投げ捨てる。彼は彼女に自分を正しく埋葬するために「死を学んで欲しい」と告げる。彼女は庭の畑を荒らすウサギを使えようとして逃げられる。何度追っかけてもつからない。ある日食卓に彼女が作ったサラダが出る。彼女のサラダは普通だが、彼のサラダは食材の野菜に全部ウサギがかじった跡がある。「人間らしくなってきた」と彼は笑う。ある日彼は「あと一週間で自分は死ぬ」と告げる。検査ではっきり寿命がわかったのだ。しかし彼女はまだ「死」とはなんだか、よくわからない。その二日後彼女は崖から落ちそうなウサギを助けようとして、崖から落ちる。彼女は彼に半壊した自分の体を見せ「直してください」と頼む。彼は願いに応じる。それから彼女は自分の腕の中で冷たくなったウサギを差し出し「この子も治せますか？」と問う。彼は首を横に振る。この瞬間、彼女は「死」を理解する…… ロボットの自分は「直す」といい、生物のウサギは「治す」という。この言葉遣いに感動しました。クロの治癒魔法にこれ以上ふさわしい名前はないと確信し、小説のタイトルを拝借しました。興味を持たれた方はぜひご一読ください。『ZOO』の1巻に収録されています。『アガルタのイオリ』第34話　荒野の屋敷 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176883334678
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7月8日
『アガルタのイオリ』第33話　「石の拳」ロベルト・デュランについて
今回カミと契約した魔法使いココの友人が三人登場します。ジョージ、ロベルト、エリックの三人ですが、これは七十年代から九十年代にかけて活躍したボクサージョージ・フォアマン（ヘビー級）ロベルト・デュラン（ライト級）エリック・モラレス（スーパーバンタム級）の三人のチャンピオンの名前を拝借しました。もちろん三人とも自分が好きなボクサーです。フォアマンはアリと戦った「キンシャサの奇跡」が有名ですが、あの敗戦は交通事故、もしくはフォアマンの自滅みたいなものだったと思います。試合の序盤ではやくもへとへとに疲れたフォアマンを見るたび「筋肉をつけすぎるのも考えものだな」とどうしても思ってしまいます。アリには負けましたが、ヘビー級史上最強のボクサーはフォアマンと自分は確信します。エリック・モラレスは「メキシコの恐怖」といわれた軽量級の名王者です。激闘型のボクサーで、ライバルであるバレラとの三度の死闘が有名です。あのパッキャオが世界的なスターになったのも、モラレスをKOで下して以降です。「井上尚弥とモラレスの試合を見たかった」とオールドファンの誰もが夢想します。激闘まちがいなしですが、終盤で井上がKOで勝つと思います（笑）。ロベルト・デュランは「石の拳」のニックネームで知られるパナマの英雄です。たぶん世界で一番有名なパナマ人でしょう。ライト級時代が全盛期で、いかにも固そうなパンチで強敵を屠りました。「スラム生まれの荒くれ者がアメリカやヨーロッパのエリートを次々倒してのし上がる」というストーリーが多くのボクシングファンの琴線に触れました。日本もその例外ではなく、狩撫麻礼と谷口ジローの大名作ボクシング漫画『青の戦士』で、主人公と最後に世界タイトルマッチを行う偉大なチャンピオンのモデルは、まちがいなくデュランです。下に張った動画でデュランの主にライト級時代のKOシーンを見られます。日本のガッツ石松や小林弘選手も登場します。ぜひご覧ください。 Top 10 Roberto Duran Best Knockouts | Highlights Boxing Full HD https://www.youtube.com/watch?v=4r5eUfSdHuc 『アガルタのイオリ』第33話　契約者ココ https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176816441459
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7月7日
『アガルタのイオリ』第32話　『死にぞこないの青』は乙一さんの小説です
今回クロが【死にぞこないの青】という魔法を使います。これは敵が放った使い魔を反転させて相手にダメージを与える魔法です。ボクシングのカウンターパンチみたいなものですが、この魔法名は乙一さんの小説『死にぞこないの青』から拝借しました。小学生のマサオはおとなしい少年だが、些細なことで担任教師に嫌われる。大学を出たばかりの男性教師は朗らかな性格で生徒に人気だが、マサオだけは陰湿にいじめ続ける。やがてクラスメートもマサオをいじめるようになる。マサオは本気で死を意識するが、そのときマサオの前にアオと名乗る不気味な少年があらわれる。アオはマサオにだけ見える。アオはマサオに教師やクラスメートに逆らえ、とそそのかすが…… 物語の終盤にマサオの感動的な大反撃があり、カウンターパンチの魔法にふさわしいと思い、今回名前を拝借しました。乙一さんの小説の多くはホラーですが「恐怖に立ち向かう勇気」もよく描かれます。恐怖が大きければ大きいほどその反抗は感動的で、『死にぞこないの青』もそんな一作です。恐怖に立ち向かう者の多くが非力な女性や子どもなのも乙一さんの特徴でしょう。興味を持たれた方はぜひご一読ください。『アガルタのイオリ』第32話　死にぞこないの青 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176816121339
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7月6日
『アガルタのイオリ』第31話　『さまよえる湖』と機動戦士ガンダム
今回敵の魔法使いが【さまよえる湖】という魔法を使います。触れた相手の体から水分を奪う魔法で、この暑い夏にふさわしい魔法（？）と思います。この魔法名はヘディンの紀行文『さまよえる湖』から拝借しました。消えた湖→消えた水、という連想です。ヘディンの本を読んだのははるか昔の子どものころで、正直内容は忘れました。たしかロプノールという大きな湖が、川の流れの変化などによって湖の位置や大きさが変わり、地図にあった場所から消える。その消えた湖の行方をヘディンが追う……という内容だったかと思います。この消えた湖の話はアニメの『機動戦士ガンダム』にも出てきます。ホワイトベースの料理長が艦内に塩がほとんど残ってないと訴える。艦長のブライトは近くの塩湖に向かうが、そこは干上がっていて湖も消えている。ホワイトベースは伝承に従って湖のあとを追い、何度かの戦闘ののち別の場所に移動していた湖を発見し、塩を手に入れる…… このエピソードは明らかにヘディンの『さまよえる湖』を参考にしていると思われます。たしか料理長が「塩がなければ戦えません」といったと記憶します。子ども心にこの言葉がやけにリアルに聞こえました。興味を持たれた方はぜひアニメをご覧ください。第16話「セイラ出撃」の回です。『アガルタのイオリ』第31話　さまよえる湖 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176815642346
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7月5日
『アガルタのイオリ』第30話　イスラムの妖精ジン
今回イオリが荒野にいるという妖怪ジンについて語ります。これはイスラム教の妖精ジンをモデルにしました。コーランによるとアッラーは三種の生物を創造しその一つが泥から創造した人間、もう一つが光から創造した天使、そしてもう一つが火から創造したジン、とされています。イスラムで偉大なアッラーは目で見ることができず、アッラーの絵画的な表現はまったくありません。教祖ムハンマドの肖像画も一枚もないほどで、イスラムにおいて「視覚」は重大なタブーです。そのためでしょうか、ジンの姿もはっきり描かれず、その形態は今もあいまいなままです。ジンについては手前みそですが、以前カクヨムに『イスラムの妖精ジン』という怪談風エッセイを投稿しました。 2600Wほどの掌編ですが、これを読んだらジンのことはほぼわかると思います。お暇なかたはぜひ。イスラムの妖精ジン https://kakuyomu.jp/works/16817330648663097443/episodes/16817330648663337750 『アガルタのイオリ』第30話　荒野の妖怪ジン https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176815035417
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7月3日
『アガルタのイオリ』第28話　映画『ニューヨーク1997』の思い出
今回スネークという敵役が登場します。これはジョン・カーペンター監督のSF映画『ニューヨーク1997』の主人公スネーク・プリスキンの名前を拝借しました。『ニューヨーク1997』は十代のころ地元の名画座で見ました。たしかセンターシネマという映画館で、自分以外に観客はほとんどいませんでした。時代はまだ八十年代で、映画の舞台設定である1997年は遠い未来でした。ニューヨーク全体が高いコンクリート壁で覆われた巨大刑務所になっていて、これはのちに書かれる菊池秀行の『魔界都市新宿』の発想の元になったそうです。今の若者にはピンとこないと思いますが、七十年代から八十年代初頭にかけてニューヨークの荒廃ぶりはすさまじく、世界中から「現代のソドム」と見なされていました。退廃したニューヨークをリアルに描いたのが『タクシードライバー』で、ニューヨーク1997はその少し後の映画です。映画はセット撮影でしたが、夜のニューヨークのさびしい感じがよく出ていて、そこにも惹かれました。大統領専用機がニューヨークに墜落する。大統領はギャングに拉致される。ギャングは警察に兵力撤退の要求書とともに大統領の指を一本送る。警察は元特殊部隊員で現在終身刑の処罰を受けているスネーク・プリスキンをニューヨークへ送る。「大統領を救出したらおまえを釈放する」と警察は約束するが、その代わりスネークの体に爆弾が注入される。爆弾は解除しないと二十四時間後に爆発する。スネークは自分自身と大統領を救うため、ギャングどもが待ち受けるニューヨークに潜入する…… 夜のニューヨークに潜入するスネークはヒーローというより悪漢で、その悪漢ぶりがめちゃくちゃかっこよかったです。映画のほうも、あともう少しで脱出するというところでヒロインが死ぬ展開が白土三平っぽくて胸に迫りました。スネークは左目に眼帯をしていて、そこも小説で真似しました。真似しましたが、こうして映画をあれこれ思い出して「スネークをもっとかっこよく書けばよかった」と、今ちょっと後悔しています。『ニューヨーク1997』予告編 https://www.youtube.com/watch?v=bYDoadSiDVs 『アガルタのイオリ』第28話　兄と妹 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176747819546
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7月2日
『アガルタのイオリ』第27話　『魔界転生』は山田風太郎の傑作です
今回ブルックが【魔界転生】という魔法を使います。敵の魔法を魔石（ウィッチ・ロック）にコピーし、自己流に上書きして使う魔法です。この「同じだけどちがうもの」というところから、山田風太郎の忍法帖の代表的傑作『魔界転生』の名を拝借することにしました。『魔界転生』では一度死んだ剣豪が魔術「魔界転生」で甦ります。甦った剣豪は生前とまったく別人格の、一種の魔人と化しています。甦った七人の顔ぶれは荒木又右衛門天草四郎田宮坊太郎宮本武蔵宝蔵院胤舜柳生但馬守柳生如雲斎という時代小説好きなら震えがくるようなオールスターキャストです。この七人の魔人にたった一人立ち向かうのが柳生十兵衛です。山田風太郎は敵の編成の描写に延々と紙数を費やし、われらが十兵衛は文庫本の217P（！）でやっと登場します。もしかしたら今の読者はこの悠々たるペースについていけないかもしれませんが、自分は初めて読んだ高校生のとき、十兵衛初登場の場面で歓声をあげました。とにかくこのときの山田風太郎の筆さばきは神がかっていました。 200頁超に渡って微に入り細に入り転生衆の恐ろしさを描き抜き「強すぎる」「こんな連中に勝てる人間はこの世にいない」と読者を絶望のどん底へ突き落とします。そしてほとんど前触れなしに、いきなりズボラで頼りな～い感じの十兵衛を登場させる。あのカタルシス！真似したい！しかし自分が本当に真似したら、主人公が登場する前に、読者は一人もいなくなるでしょう。『アガルタのイオリ』の主人公は最初男だった、と以前書きました。その男の剣士の名前はエイジといい、年齢は二十七歳、黒い竜皮のツナギはイオリと同じですが、左目が閉じた片目の剣士なのはイオリとまったくちがいます。そうです、エイジのモデルは柳生十兵衛です！その後いろいろあって主人公のキャラは全然別人格になりましたが、柳生十兵衛を主人公にした伝奇小説は、いずれ書いてみたいと思います。『アガルタのイオリ』第27話　価値の魔法 https://kakuyomu.jp/works/16818622176421206781/episodes/16818622176747016723
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森新児

『アガルタのイオリ』第77話 深作欣二の映画『魔界転生』

『アガルタのイオリ』第76話 新東宝の映画『セクシー地帯』とスケッチ教室

『アガルタのイオリ』第75話 レイ・ハリーハウゼンのクリーチャー

『アガルタのイオリ』第74話 モーツァルトのレクイエム

『アガルタのイオリ』第73話 黒澤明『椿三十郎』の決闘シーン

『アガルタのイオリ』第72話 開高健の傑作短編『岸辺の祭り』

『アガルタのイオリ』第71話 ビートルズの『ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア』

『アガルタのイオリ』第70話 鷲の鳴き声

『アガルタのイオリ』第69話 映画『白痴』と『バルタザールどこへ行く』

『アガルタのイオリ』第68話 タイトル回収回とエミネム

『アガルタのイオリ』第67話 諸星大二郎の『暗黒神話』

『アガルタのイオリ』第66話 霞（かすみ）の構えと映画『キル・ビル』

『アガルタのイオリ』第65話 あゝ無情とレ・ミゼラブル

『アガルタのイオリ』第64話 レンブラントの『夜警』

『アガルタのイオリ』第63話 ヘミングウェイの『日はまた昇る』

『アガルタのイオリ』第62話 『罪と罰』顛末記

『アガルタのイオリ』第61話 「二次創作の天才」太宰治とマイケル・バッファー

『アガルタのイオリ』第60話 夏の甲子園の開会式

『アガルタのイオリ』第59話 諸星大二郎の傑作短編『ぼくとフリオと校庭で』

『アガルタのイオリ』第58話 ロシア革命と『戦艦ポチョムキン』

『アガルタのイオリ』第57話 ドストエフスキーの処刑未遂体験

『アガルタのイオリ』第56話 『罪と罰』と刑事コロンボ

『アガルタのイオリ』第55話 ジェイムズ・M・ケインという作家

『アガルタのイオリ』第54話 「虎の穴」と梶原一騎

『アガルタのイオリ』第53話 軍馬のトレーニング

『アガルタのイオリ』第52話 鷲巣晶さんから『少年呪術師』のレビューをいただきました！

『アガルタのイオリ』第51話 映画『用心棒』の決闘

『アガルタのイオリ』第50話 リベロとはなにか？

『アガルタのイオリ』第49話 ヘミングウェイと『ミッシェル』

『アガルタのイオリ』第48話 すいません、大ミスやらかしました！

『アガルタのイオリ』第47話 千年後のビートルズ

『アガルタのイオリ』第46話 アニメ『デビルマン』の妖獣ララ

『アガルタのイオリ』第45話 少女が見た風景

『アガルタのイオリ』第44話 ブラフマンは諸星大二郎『暗黒神話』で知りました

『アガルタのイオリ』第43話 田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』

『アガルタのイオリ』第42話 ロバート・アルドリッチとジャック・ロンドン

『アガルタのイオリ』第41話 『花と蛇』は団鬼六の大河SM小説です

『アガルタのイオリ』第40話 『芽むしり仔撃ち』は大江健三郎の傑作です

『アガルタのイオリ』第39話 ウルトラセブン最後の激闘

『アガルタのイオリ』第38話 ゴジラと伊福部昭

『アガルタのイオリ』第37話 カイザー（皇帝）フランツ・ベッケンバウアーのこと

『アガルタのイオリ』第36話 映画『スティング』のポーカー勝負

『アガルタのイオリ』第35話 ギャンブル物の最高峰『南から来た男』について

『アガルタのイオリ』第34話 『陽だまりの詩』は乙一さんの傑作短編です

『アガルタのイオリ』第33話 「石の拳」ロベルト・デュランについて

『アガルタのイオリ』第32話 『死にぞこないの青』は乙一さんの小説です

『アガルタのイオリ』第31話 『さまよえる湖』と機動戦士ガンダム

『アガルタのイオリ』第30話 イスラムの妖精ジン

『アガルタのイオリ』第28話 映画『ニューヨーク1997』の思い出

『アガルタのイオリ』第27話 『魔界転生』は山田風太郎の傑作です

『アガルタのイオリ』第77話　深作欣二の映画『魔界転生』

『アガルタのイオリ』第76話　新東宝の映画『セクシー地帯』とスケッチ教室

『アガルタのイオリ』第75話　レイ・ハリーハウゼンのクリーチャー

『アガルタのイオリ』第74話　モーツァルトのレクイエム

『アガルタのイオリ』第73話　黒澤明『椿三十郎』の決闘シーン

『アガルタのイオリ』第72話　開高健の傑作短編『岸辺の祭り』

『アガルタのイオリ』第71話　ビートルズの『ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア』

『アガルタのイオリ』第70話　鷲の鳴き声

『アガルタのイオリ』第69話　映画『白痴』と『バルタザールどこへ行く』

『アガルタのイオリ』第68話　タイトル回収回とエミネム

『アガルタのイオリ』第67話　諸星大二郎の『暗黒神話』

『アガルタのイオリ』第66話　霞（かすみ）の構えと映画『キル・ビル』

『アガルタのイオリ』第65話　あゝ無情とレ・ミゼラブル

『アガルタのイオリ』第64話　レンブラントの『夜警』

『アガルタのイオリ』第63話　ヘミングウェイの『日はまた昇る』

『アガルタのイオリ』第62話　『罪と罰』顛末記

『アガルタのイオリ』第61話　「二次創作の天才」太宰治とマイケル・バッファー

『アガルタのイオリ』第60話　夏の甲子園の開会式

『アガルタのイオリ』第59話　諸星大二郎の傑作短編『ぼくとフリオと校庭で』

『アガルタのイオリ』第58話　ロシア革命と『戦艦ポチョムキン』

『アガルタのイオリ』第57話　ドストエフスキーの処刑未遂体験

『アガルタのイオリ』第56話　『罪と罰』と刑事コロンボ

『アガルタのイオリ』第55話　ジェイムズ・M・ケインという作家

『アガルタのイオリ』第54話　「虎の穴」と梶原一騎

『アガルタのイオリ』第53話　軍馬のトレーニング

『アガルタのイオリ』第52話　鷲巣晶さんから『少年呪術師』のレビューをいただきました！

『アガルタのイオリ』第51話　映画『用心棒』の決闘

『アガルタのイオリ』第50話　リベロとはなにか？

『アガルタのイオリ』第49話　ヘミングウェイと『ミッシェル』

『アガルタのイオリ』第48話　すいません、大ミスやらかしました！

『アガルタのイオリ』第47話　千年後のビートルズ

『アガルタのイオリ』第46話　アニメ『デビルマン』の妖獣ララ

『アガルタのイオリ』第45話　少女が見た風景

『アガルタのイオリ』第44話　ブラフマンは諸星大二郎『暗黒神話』で知りました

『アガルタのイオリ』第43話　田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』

『アガルタのイオリ』第42話　ロバート・アルドリッチとジャック・ロンドン

『アガルタのイオリ』第41話　『花と蛇』は団鬼六の大河SM小説です

『アガルタのイオリ』第40話　『芽むしり仔撃ち』は大江健三郎の傑作です

『アガルタのイオリ』第39話　ウルトラセブン最後の激闘

『アガルタのイオリ』第38話　ゴジラと伊福部昭

『アガルタのイオリ』第37話　カイザー（皇帝）フランツ・ベッケンバウアーのこと

『アガルタのイオリ』第36話　映画『スティング』のポーカー勝負

『アガルタのイオリ』第35話　ギャンブル物の最高峰『南から来た男』について

『アガルタのイオリ』第34話　『陽だまりの詩』は乙一さんの傑作短編です

『アガルタのイオリ』第33話　「石の拳」ロベルト・デュランについて

『アガルタのイオリ』第32話　『死にぞこないの青』は乙一さんの小説です

『アガルタのイオリ』第31話　『さまよえる湖』と機動戦士ガンダム

『アガルタのイオリ』第30話　イスラムの妖精ジン

『アガルタのイオリ』第28話　映画『ニューヨーク1997』の思い出

『アガルタのイオリ』第27話　『魔界転生』は山田風太郎の傑作です