夜空に火焔の華その播種の如き芽吹きを見る。

自分は何処かおかしいのだろうか。
棒手振りも大工も岡っ引きや同心。そして
両親までもが皆、一つきりしか目玉が
なくて、もう一方は黒々とした深い竅が
穿たれている。
 或る時、弟が生まれたが。その子は
自分と同じく両の目から涙を流して泣いて
いた。
     いずれ、片方が抜け落ちて
 しまうのか?

何故 は更なる好奇心に揺さぶられて
悪所を巡る。廓町の華やかな喧騒の、その
裏通りでは両の目が竅となった女郎が
粗末な茣蓙に座っては、愛想笑いを
浮かべていた。

底無しの暗い竅が、自分を見つめている。


大火に見舞われ、半鐘と火の粉が降り注ぐ
中に、焔炎に照らされた荒磯と菊柄の
振袖姿をした女性を見た時に。
 そして、焼け野原に夜空を仰いだ時に。
漸くそれが理解できたのだ。

何故、皆の目が抜け落ちてしまうのか。

 誰が何を見ているのか、そして


見られているのか。


何れ、この目も抜け落ちて
しまうのだろうか。



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