主人公には目があった。両の目があった。
世間の多くの者には一方がないのに、主人公には、両方の目があった。
あるとき主人公は母に問う、「おっかさん、目ん玉が一つなくて見えるの」──。
さらりと読めば からりとした文体を楽しめる不思議な物語。
じっくり考えてみれば──なんというのでしょう、人間の、歳を重ねていくこと、それに附随する反応 などについて考え込めるような物語に感じました。
個人的な感想を押しつけるのは避けたいのですが、何事も子どもの方がよく見えているものだよなあと、改めてしみじみと思いました。
このレビューはただ、あなたさまがこの作品に出会えるきっかけとなれば嬉しいです。
恐ろしくも どこか懐かしさのただよう世界をご堪能ください。
自分は何処かおかしいのだろうか。
棒手振りも大工も岡っ引きや同心。そして
両親までもが皆、一つきりしか目玉が
なくて、もう一方は黒々とした深い竅が
穿たれている。
或る時、弟が生まれたが。その子は
自分と同じく両の目から涙を流して泣いて
いた。
いずれ、片方が抜け落ちて
しまうのか?
何故 は更なる好奇心に揺さぶられて
悪所を巡る。廓町の華やかな喧騒の、その
裏通りでは両の目が竅となった女郎が
粗末な茣蓙に座っては、愛想笑いを
浮かべていた。
底無しの暗い竅が、自分を見つめている。
大火に見舞われ、半鐘と火の粉が降り注ぐ
中に、焔炎に照らされた荒磯と菊柄の
振袖姿をした女性を見た時に。
そして、焼け野原に夜空を仰いだ時に。
漸くそれが理解できたのだ。
何故、皆の目が抜け落ちてしまうのか。
誰が何を見ているのか、そして
見られているのか。
何れ、この目も抜け落ちて
しまうのだろうか。
唯一無二な世界観を見たな、と最初から最後まで凄かったです。
主人公の少年には、「みんなの片目がない」ように見える。
父や母や、他の同年代の子供たち。それらの人々は「片方の目が空洞になっている」ように見える。
でも、彼らにはその自覚にはなく、「目は二つある」と言い張る。
どうして、彼らの目はないのか。そして、「消えた目」は何処に行ったのか。
この前提となる世界観の異質さで、序盤から心を掴まれました。
そのまま読み進めていき、ラストで出てくる「思わぬヴィジョン」に驚愕。
このヴィジュアル的なイメージがとにかく強烈なインパクトを持っていました。とにかく世界観の凄みに圧倒される、パワーに満ちた作品でした。