冒頭で抱く印象を、気持ちよく裏切ってくれる素晴らしい作品

※このレビューにはオチのネタバレが含まれるため、ご注意を。


義母の通夜に、夜更けに訪れた弔問客。
それは一人の老婆であるが、一見“何かよくないものが来たのか”と感じさせるほど、徹底して不気味でネガティブな要素を以て描写されている。
老婆の登場シーンまでは、きっとこれからおどろおどろしいホラーが始まるのだと思っていた。

そこからの、話の流れがとても良かった。
短い話であるのに、その背景に大きな広がりが見える。
義母やトラが生きていた時、きっととても穏やかで幸福な時間がそこにはあったのだろう。

すでに化け猫となった身であっても、弔問に訪れる義理堅い猫。
化け猫になったトラに、ゆで卵をやるからたまには来いという義父。

今生ではもう関わることのない存在となってしまったはずなのに、かつて結ばれた絆によって、今なお、そしてこれからも彼らの心は繋がっていくのである。



ゆで卵を食べに来ているのが、トラであったら良いな、と心から思う。
読後に優しい余韻が残る、素晴らしい物語だった。

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