人生を変える一曲

 無味乾燥な街から抜け出すべく歌手を目指した三十年前。
 チャンスはめぐってくるものの、自分の力を過信しすぎてしまいました。

 結局のところ夢はやぶれ、ただただ時間を過ごすばかり。
 妻には頭が上がらず、息子とも心が通じない。

 俺の人生、無駄だ。なんの意味もない。
 あのワンステージさえモノにできていれば。
 もうこうなったら、残りはただの消化試合。

 鬱屈した毎日の中、一つの話がやってきます。
 ピアノを弾いてくれないか、と。

 聞けば聞くほど、三十年前の状況に酷似しています。
 ピアニストに立場を変え、自分そっくりなヴォーカルを支えるという点以外は。

 このステージ、なんとしても成功させたい。
 あのヴォーカルには同じ思いをさせたくない。

 彼の魂の再演がもたらすものは――――

 しみじみとした読後感。
「意味」を考えてみるといいでしょう。

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