痛みと祈りが交錯する──現実と異界の境界を生きる物語

静かな日常の地平が
ふとした瞬間に裂け

現実と異界が
指先ほどの距離で重なり合う──

そんな〝境界の物語〟を読みたい人に
この作品は強く響くでしょう。

子どもの無垢な想像力が
実は世界を支える真実であり

大人の理性はかえって脆く
痛みに晒されやすい。

東名を駆ける一台のバイク
家族を失った職人の夢
震災の残響

そして
時空を越えるために払われる代償──

それらは散逸した断片ではなく
ひとつの〝祈り〟のように
静かに繋がり出す。

日常の手触りと
胸を抉るような現実の痛み。

そして、容赦なく訪れる超常の気配。

そのどれもが嘘ではなく
本当にこの世界に在るのだと思わせる筆致に
胸を掴まれます。

華やかな冒険譚ではない。

これは
失われたものを抱えた人々が
それでも誰かを救おうと歩き続ける物語──

読み終える頃には
きっと世界の色が少し変わって見えでしょう。

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