15 カスのリーダーは信頼の証

 ――爆音と白煙が去り、崩壊ほうかい余韻よいんだけが残った頃。淡いグリーンのポニーテールを揺らすビアンカは、扉の裏に背を預けたまま、肩越しにホールを見つめていた。視線の先にあるのは、仲間の安否を確かめて走るアラミスの背中。その姿から目を離せずにいた。


 脳裏によみがえる、あの言葉。


 ――また戻ってくるよ。君に殺される為にね。


 あれは虚勢きょせいか冗談か、それとも覚悟か。

 それを確かめるためだけに彼女はここまで来たのだ。銀の弾丸を詰めたハンドガンを握り、人々を守ろうと命を懸けて異形獣まものに銃口を向けた青年……ビアンカは、気づいてしまった。


(……よくわかったわ。あなたが本物のバカだったってこと――)


 ビアンカは飲食店の前でアラミスに暴行を加えた恥知らずな3人組を開放すると、瓦礫がれきと化したホールの中心へ歩き出す。白いブーツのかかとが床の破片の上をバランスひとつ崩さずに進む。

 建物の天井は吹き飛び、集会所としての面影はもうない。白装束達はとっくに去り、残っていたのはヒースの前に立つサイモンとヨハンだけだった。

 ――これだけは伝えなければ……胸の奥で、何かが音を立てて崩れていた。その目は「青い疾風ブルーゲイル」の4人を真っすぐにとらえていた。


「ヒース! やったな!」


 ミツヤは走り寄るなり、ヒースがかかげる手に自身の手を合わせた。バチンと心地よい音が廃墟となったホールを抜けていく。


「ヒースの破廉恥はれんちい! 隠してよおおおっ!」


 ジェシカの悲鳴が飛ぶ。ヒースの服は爆発で吹き飛び、かろうじて腰回りから下だけに申し訳程度の下着が残っていた。もちろん、髪や皮膚は火傷やけどひとつしていないのだが。そこへアラミスがすっ飛んできて白装束の衣装をヒースの腰へバシッと投げつける。


「てめぇ、レディーの前でいい加減にしろッ!」

「何だよ、しゃぁねえだろう。あの爆発のうずの中だぜ? 服なんか燃えちまうだろう!?」


 すっかり緊張感が消え、空気が緩んだ彼らの中へ、ビアンカはゆっくりと歩み出た。


「――ビアンカちゃん。いいぜ。表に出よう」


 アラミスはビアンカが来ていることを知っていた。あの約束を果たそうとでもいうのか、ビアンカへにっこり微笑みかける。


「何よ? どういうこと?」


 ジェシカはまだ知らない。ビアンカが商人の娘などではないこと、そしてアラミスと何の約束があるのかを。


「アラミスっ! ビアンカさんに手を出したらあたしが許さないわよ!」


 ジェシカの真っすぐな水色の瞳にビアンカはフッと笑って向き直った。


「ジェシカさん。ごめんなさい。いえ、アラミス、『青い疾風ブルーゲイル』のみんな。私はあなた達をだましていました」


 薄々気づいていたミツヤも、意味の分からない表情をしたヒースとジェシカも、一斉に固唾かたずをのんだ。


「私がアラミスから奪ったもの――お返しするわ」


 彼女は護衛隊特殊部隊の認証バッジをふところから取り出し、アラミスの手に戻した。

 唖然あぜんとする一同を前にビアンカは続ける。


「ですが私にも任務があるの。これ以上の話はできない。でも――もう二度とあなた達の前には現れないと約束するわ」

「ビアンカちゃん……!」


 アラミスが一歩、前へ出た。


「皆さん最後にひとつ、いいかしら」


 ビアンカはふっと視線を落とした。これまで共に行動した時間をなぞるように、ほんの数秒、沈黙が流れる。


火焔かえんのヒース――その2つ名は確かに認めるわ。でもリーダーとしては失格だと思ってた。なぜならリーダといいながら」


 不意の言葉に、場の空気が張りつめる中、ビアンカは1人ずつ視線を巡らせた。


「――ミツヤ。あなたのように慎重かつ常識的な判断が出来るわけでもなく」


 次にジェシカへ向き直る。


「ジェシカ。あなたのように常に周りを見ているわけでもない」


 そしてアラミスを真っすぐ見る。


「ましてやアラミス。あなたのように頭がキレるわけでもない」


 ここまでの話を聞きながら、ミツヤ、ジェシカ、アラミスの3人は口元を緩ませニヤニヤしていたが、ヒースの表情だけが次第に曇っていく。


「私が見ていただけでも勝手な行動をして周囲に迷惑をかけ、挙げ句の果て仲間を危険にさらす……こんな『カスのリーダー』なんかに、なぜ皆ついていくのかと――」


 次々と並べたてられるヒースのマイナス面に、当の本人の表情は険しくなり始めた。


「――でも、私の方が間違ってたのね」


 その言葉を待っていたかのようにミツヤ、ジェシカ、アラミスの3人が同時に、迷いなく声を重ねる。


ついていくんだ!」


 ヒースは言葉を失った。意味がわからない、という顔のまま固まる。そのヒースの不満そうな顔を見たミツヤが補足するように真剣な目で付け加えた。


「騙されやすいからな。危なっかしくて放っとけないだろ?」


 更に、ジェシカが口を尖らせ君で続ける。


「何だかんだで、いっぱい助けてもらってるからね」


 ヒースは何となくむずがゆい気がして鼻の下を指でこする――だが、最後にアラミスの放った一言がヒースをブチ切らせてしまう。


「放置しとくと世の人のためにならねぇからな」


 間髪入れず、ヒースがアラミスの胸倉をつかんだ。


「なんだとテメェ!」

「ミッチー止めて。公衆の面前で恥ずかしい」


 冷静なジェシカの声と同時に、ミツヤが慌てて2人の間に割って入った。


「やめろよ、お前らなんでいつもこうなんだよ」


 その光景をビアンカは黙って見つめていたが、彼女の胸に熱い疾風しっぷうが吹き抜けていたことは、誰も気づいていなかっただろう。


(私は――ついていくリーダーを間違えたようね……)


 彼女は一礼すると、その後は振り返りもせず足早に街の外れへ向かって去っていったのだった――。


 ◆


 ほどなくして、爆音を聞きつけた衛兵たちが駆けつけてきた。200人以上を収容できるはずのEIA集会ホールは、屋根を失い、瓦礫同然の有様となっている。どうやったらこんなに粉々になるのか。驚愕きょうがくする衛兵たちはサイモンから事情を聞き、やがて納得したように全員へ礼を述べると、異形獣まもの2人を罪人として連行しようとした。


「ちょっと待ってくれないか」


 声を上げたのはヒースだった。

 左手には炎斬刀のさやげ、上半身は裸で腰には白装束の布を巻いたまま。


「何だね!?」

「こいつら2人をどうすんだ? まさか死罪ってことはねぇよな?」


 それを聞いた衛兵の一人が眉を寄せて問いただす。


「死罪の他に何があるっていうんだ? この2体は異形獣まものだぞ? 建物も損壊させ、そもそもEIAの構成員も大勢殺害してるんだろ?」

「あー、ちょっと違う。このホールをぶっ壊したのは俺とミッチーだ、そこは悪かった。あと――殺したのは総裁一人だけだぜ」


 衛兵とヒースの会話に、薄く笑いながらアラミスが割り込み、ヒースとミツヤを指さして訂正する。


「まぁ人数の問題じゃない、殺したことに変わりはないからな。怪我人は38名だ。コイツら2人と俺を入れてね」


 まるで異形獣まものかばうかのような言葉に、衛兵の語気が荒くなる。


「こいつら、異形獣まものなんだぞ!? じゃぁ一体どうしろっていうんだ!」


 ***《次回予告》***


 ヒース:ミッチー、俺の服どうしよう……。あの黒いコート気に入ってたのに。

 ジェシカ:ああ、それなら替えが馬車にあるわよ。クロード総隊長が、片袖かたそでくらいは燃えるかもしれないと、コッソリ渡してくれてたの。

 ヒース:何!? ビークロが? なんで最初に言わねぇんだよ!

 ジェシカ:そんな事したら安心して燃やしまくるから黙ってろって言われたの。まさか全裸同然になるとは思いもよらなかったけど。

 ミツヤ:よかったなヒース。ほら、馬車までその白装束でも被ってろ、風邪ひくぞ。

 ヨハン:サイモン殿おぉぉぉぉ! どこへ行かれたのですか!? あ! サイモン殿、こんなところに!

 ヒース:ちげぇ! 俺はヒースだ!

 ヨハン:ひぃぃ――ッ!

 サイモン:……次回第16話、「次は僕の番だ」。ヨハン、私はこっちだ。スーパーで親を間違える子供か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青い疾風(ブルーゲイル)! ~蒼炎(そうえん)の断界編~ 島村 翔 @Alamis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画