怪異ものなのに、気付けば笑っている。
そして笑っていたはずなのに、ふと背筋が寒くなる。
太刀塚想子と、彼女に付き従う大蜘蛛・九縄。
この二人の掛け合いがとにかく楽しいです。
九縄は明らかに恐ろしい存在なのに、想子との会話になると妙に生活感があり、長年連れ添った家族のようでもある。一方の想子も、どこか浮世離れしていて呑気。それでいて、人ならざるものと生きることへの複雑な感情もしっかり抱えています。
事故物件、迷い猫、クリスマスと、題材そのものは身近なのに、そこへ怪異がごく自然に入り込んでくるのも魅力的。
特に好きなのは、怖さと可笑しさの距離感です。
ぞっとする場面では容赦なく怖い。それなのに次の瞬間には、想子と九縄のやり取りで笑わされる。この緩急のおかげでページが進みます。
派手な怪異退治だけではなく、人と人ならざるものが一緒に暮らす日常そのものを楽しめる作品。
九縄の口の悪さと、想子の絶妙な駄目っぷりが、だんだん癖になってきます。
千年を経た大妖を使役し、あやかし退治として莫大な利益を得る古き大家、太刀塚家。
想子はその跡継ぎとして力と利権を得た一人の女子大生。だがその契約は程なく終わりを告げようとしていた。
千年もの束縛を受けたあやかしの心中は如何ばかりか。しかも契約の期限がいつ切れるのか、正確な時間がまるで分からない。分かっているのは自分の代で切れる、ただそれだけ。
いやー、設定だけ見るとキッツイです。いつバクハツするのか分からない時限爆弾を背負って生活するようなもんです。厭世気分も極まれり。自堕落にもなろうというもの……
いや、それは元からの性格か。
使役する大蜘蛛九縄と共に太刀塚想子は、何某かの因果に絡め取られた様々な登場人物たちや、様々なあやかし、常識をひねって返す不条理に翻弄されながら、今日もおっかなびっくり日々を送ります。
果たして九縄との契約は延長可能なのか。明日どころか、今すぐにでも失効して口では言えない壮絶な最後を迎えるハメになるのか。
分からないから更に怖い。何かにすがりたいけれど、すがる先すら分からない。
これは普通じゃない身の上を、どうしようもないけれどどうにかならないものかと、悶々としながら手探りで日々を送る、極々普通な女子大生の物語です。
巨大蜘蛛と女子大生の同居譚は、「終わりが確定している日常を、どうやって今日まで運ぶか」の物語。
冒頭の異物感は強烈なのに、読んで残るのは恐怖より生活の匂い。
毒舌、説教、容赦ないツッコミ。千年モノの怪物がやっているのは、掃除機を操り、紙屑を分け、段取りを整え、言葉で人間を立たせること。
可笑しいのに、ふと気づく。この生活の手入れそのものが、守護の形式なんだと。
想子のだらしなさも、ただの怠惰じゃない。達観と諦めの底で、それでも今日を続けてしまう。その姿が九縄の千年の重さと釣り合って見える瞬間があり、胸を掴まれました。
八本の脚で囲まれた檻——守られて、出られない。
優しさと束縛が同じ形をしているから、笑っていた場面で静かに背筋が冷える。
日常がそのまま怪談に反転する瞬間が巧い、唯一無二のバディものです。
家賃一万円。
物価高な今日この頃では大変魅力的ですがお約束通りの事故物件を契約し、ちゃっちゃっと問題を解決するところから話は始まります。
そして披露されるちょっとポンコツ気味の女子大生・想子のユルい生活と、守護である蜘蛛・九縄のセンスありまくりなお説教と皮肉と突っ込みと返し。
思わず座布団をあげたくなる、言語センスの楽しい人外バディものになります。
バディ契約がいつ切れるか明確ではなく、九縄の物騒な強さが自分への刃になるかも知れないという緊張感を孕みつつも、
類が友を呼ぶのか、面白おかしい個性的な知り合いが増えていきます。
笹田さんがお気に入りです。癒されます。
のんびり楽しく読める作品だと思います。
代々憑き物筋として繁栄を享受してきた当代の主人公が、契約相手であるクモと様々な問題を解決していく現代ファンタジー作品です。
主人公は強力なクモの妖怪と契約を結んだ女子大学生。
けれど、みだりに力を振るうつもりは無く、むしろ怠惰な欲望のままに一日を無為に過ごしています。
彼女の家が代々家業としてきたのは、クモを用いたあらゆる意味で表に出せない仕事。
しかし、主人公は家業に嫌気がさしており、仕事を行わないせいでいつも金欠です。
怠惰の中で憂うのは、迫りつつあるクモとの契約期限。
終わりはクモの豹変を招くのか、それとも穏当な更新に終わるのか。
手の平が届く範囲しか救わない霊能者とクモの物語。
ぜひ読んでみてください。