14 繰り出せ、炎雷爆葬(ブレイズサンダー・バースト)!

「言っとくが、俺がタンクトップ着てるのは暑いからじゃねぇ、服の袖が解けちまうからだ」


 ザイードの両手が前に突き出された。

 ヒースとザイードは、既に決着のついたミツヤたちから十数メートル離れたホールの端で暴れていた。


「――さっきのよりデカいのをお見舞いしてやる! 地殻灼圧ジオ・インフェルノオ――ッ!」


 するとザイードの開いた両手の平から、地鳴りのような音とともに灰褐色はいかっしょく噴流ふんりゅうが噴き出す。地殻ちかく由来の高温蒸気に岩粉がんぷんが混じり合い、かすっただけで肉を焼き裂き、床を削り取る破壊の奔流ほんりゅうだ。


 ヒースは咄嗟とっさにジャンプでかわす。彼が立っていた床は数メートルに渡って帯状おびじょうに溶けていた。


「くっそう、洒落しゃれにならねぇ威力だな!」


 炎をまとわせた炎斬刀えんざんとうで繰り出す技も、ザイードはそれを真正面から受け止め、まるで吸収するかのように立ちはだかる。


「……な、なによ、あれ……!」


 ザイードの蒸気や噴流ふんりゅうに、ジェシカは思わず一歩、後ずさった。


「アラミス、あいつら正面から焼き合うつもりじゃないわよね……?」

「放っておけばやりかねないな。だが――」


 熱気が肌を刺し、息をすれば肺の奥がかれるようだ。もはや館内に安全な場所など存在しなかった。

 視線の先で、ヒースが炎斬刀えんざんとうを手に呼吸を整えている。そこへ、稲妻の光を引き連れてミツヤが駆け寄った。


「ミッチー! やったのか!? てかその肩!?」

「かすり傷だ。それよりアラミスの作戦だ」


 どちらもザイードから目をらさず一言ずつ呟く。

 ザイードはミツヤを見た途端、まさかという目をして後ろを振り返った。するとアラミスがマルコスの両手両足に銀の手錠を付けている――にわかに困惑と怒りが込み上げた。


「冗談だろう……? こんなガキにマルコスあいつがやられるとは」


 1つ大きく息を吸ったザイードは両腕をヒースとミツヤへ向ける。


「小僧、よくもやりやがったな! だが俺はああはならねぇ!」


 何かを察知したミツヤはジェシカへ叫ぶ。


「ジェシー! もうドアは開くはずだ! 今すぐ全員を連れて退避だ!」


 その言葉に館内の全員がドッと出入口のドアへ押し寄せる。白装束の重傷者は対策部隊の隊員たちが運びだし、アラミスは意識のないマルコスを担いで最後にホールを抜けた。


 その直後――ミツヤを狙ったザイードのジェット噴流ふんりゅうが出入口から飛び出し、屋外数十メートル先まで伸びていく。


「大丈夫か、ジェシーちゃん……!」

「うん。けどヒース……ミツヤ……あんたたち、今から何する気……!?」


 ジェシカはドアの向こうに目を向けた。灼熱のホールに残されたのは背を向けたまま一歩も引かない2人だけ。嫌な予感だけが胸の内で膨らんでいく。


「そうだな。確かに――温度自体はザイードの方が上だ」


 ドア越しに館内をのぞいていたアラミスは、タイミングを見定めるとジェシカに声をかけ、転がっていたバケツを掴んで噴水まで走り寄った。


「え? アラミス何やってんの……?」

「ザイードの熱は地殻ちかく由来だ、蒸気や岩粉も混じってる。正面からじゃヒースの炎でも分が悪い」

「そんなぁ……!」

「まぁ、見ててみな」


 アラミスはそう言うと、噴水の水をバケツ一杯分んで再びホールへ駆け込む。


「頼むぜヒース、ミッチー。この一手はお前らにしか出来ねぇ!」


 そう言いながら、再びホールの中へ駆け込み、バケツの水をザイードの足下へぶちまける。それを見たザイードは顔いっぱいに口を広げ、牙をき出して笑った。


「フハハハッ……水かよ。その程度の量で俺を止められると思ってるのかあ!?」


 景気よく笑うと、ザイードは再び噴流ふんりゅう砲を仕掛けようと両腕を突き出す。

 ところがヒースは炎斬刀に炎を走らせ、ザイードの正面に立ったのだ。


「いい度胸してんな……なら真正面から受けろよ」


 ザイードの体から、ヒースと同じオレンジ色の光が包みはじめ、どんどん色が濃くなっていく。


「消え失せろォ! 地殻灼圧ジオ・インフェルノオォォォォ――ッ!」


 灰褐色はいかっしょく噴流ふんりゅう轟音ごうおんをたて、真っすぐヒースに向けて放たれた。ヒースは正面に炎の立ちのぼ炎斬刀えんざんとうをかざし、噴き荒れる水蒸気を押し返す。すると噴流ふんりゅうは刃を中心にして左右へと引き裂かれていく。


「くっ……なんて圧だ――けど諦めねぇ……!」


 それは水蒸気を使った作戦だった。床に広がったバケツ水はもちろん、ザイードの放った水蒸気、館内全体の湿気までもが一斉に蒸発し、白い蒸気が爆発的にふくれ上がった。

 ヒースはそのタイミングで炎斬刀から渾身こんしんの必殺技を繰り出す。

 刀を地面に突き刺し、全力を叩き込んだ。


「これを食らって立ってたヤツはいねぇ! 火焔爆裂ブレイズ・ブラスターアアア――ッ!」


 ズ――――ドンドンドンドンッ……ドガアアアアアア――ッ!


 炎の爆発が地中を伝うように連続して発生し、床を砕きながら前方へと進む。その数メートル先にいる者は足下あしもとから突然噴き上がる爆炎に気づく暇もなく飲み込まれるのだ。これは炎斬刀を使う能力ドナムの中でも大技だが、これを打ち出したのはザイードに水蒸気の壁をまとわせるためだった。


「ハハッ、それがどうした! 蒸気防御スチーム・シールドオ――ッ!」


 案のじょう、炎の渦に対し、一瞬で自らの周囲に分厚い水蒸気のバリアを展開する。白濁した霧が巨大なまゆのように彼を包み込んだ。

 その一連の彼らの攻撃を見ていたアラミスがフッと笑った。


「……来るぞ」


 アラミスの視線は、次の一手を待つミツヤへ注がれる。


「なにが?」


 ジェシカは両眉をぎゅっと近づける。


「あいつの雷は別枠だ」

「別枠?」

「物理法則を守る気がないんだ」

「……え?」

電解質でんかいしつも導線も無視して、数千万ボルトの電圧で結果だけを叩きつける」


 その言葉に合わせるように、ミツヤの周囲で雷がうなり始めた。


「つまりだ」


 アラミスはジェシカにだけ聞こえる声で続ける。


「熱で押してくるのはザイード、ルールをぶっ壊すのがミッチー。そこへヒースの特大炎ってわけさ……!」


 ジェシカは、はっとして前を見た。ヒースが一歩踏み出し、炎斬刀えんざんとうを構える。

 ミツヤがその斜め後ろで、黄色い光を纏わせた手に雷のエネルギーをボール状にしていた。


「ウソ……アレをやるの? こ、この建物の中で……!?」


 ジェシカは、拳を握りしめた。

 アラミスが口の端を上げた、その瞬間――ヒースとミツヤの声が灼熱しゃくねつのホールに響き渡る。


「タイミングを逃すな、ヒース!」

「オッケイ――今回は派手に行くぜ!」


 それは半年ほど前、アラミスの提案で初めて、水の能力ドナムを持つ人型の異形獣まものを相手に使った命懸けの連携技だ。そして2人の力が今、重なろうとしていた。


「……自分の防御が『檻』になる気分はどうだ! 雷神砲サンダーボール――ッ!」


 ミツヤのバレーボール大の雷玉かみなりだまが放たれた。雷光は水蒸気の海に吸い込まれ、無数の光の筋となって内部を走った。一見では分からない、しかし内側では確実に異変が起きていたのだ。

 稲妻が、白濁はくだくした蒸気の中を駆け巡り、水の分子を無理やり引きちぎっていく――。


「何をやってる!? 見ろ、何万ボルトか知らねぇが壁と俺の空間は2メートルもあるぜ!」


 何も気づかないザイードの前で、空気は確実に変質していた――音もなく、が発生したのだ。


「……爆炎奔流ファイアー・バースト発動だ! ミッチ――ィ、逃げろおおおお――っ!」


 ヒースはが炎斬刀に炎を走らせ地面に打ち付けると、炎が帯状に対象へ向かって地面をうよう一直線に走った。


「キッチリ受け取れよ! これが炎雷爆葬ブレイズサンダー・バーストだあああああ――ッ!」


 一直線に走った炎が蒸気の塊へ触れた――その瞬間。


 ズドオォォォォォォォォン――――ッ!!


 世界が白に塗り潰された。

 内側から膨張ぼうちょうした衝撃波が天井の穴と四方の出入口へ噴き出し、凄まじい風圧となって逃げていく。だが中心では、逃げ場のない衝撃が確実にザイードを飲み込んでいた。

 ザイードの叫びは、蒸気の内側で起きた爆発にき消される。やがて砂塵さじんが収まると、そこにいたのは――膝をつき、両腕を肩から失い、意識のないザイードの姿だった。




 ***《次回予告》***


 ヨハン:サ、サイモン殿おおおおおお――ッ! あれは何でありますか――ッ!?

 サイモン:イントルーダーの恐るべき能力ドナムの結集だ。私もあれ程の力を見たのは初めてだ。使い方次第では地形が変わってしまうぞ。

 ヨハン:サイモン殿、これだからイントルーダーを蔓延はびこらせては危険だということですよね? よぉーく分かりました!

 サイモン:――いいかヨハン。その回答はこんな次回予告の場で告げるのはあまりに不適当だ。次回にまわすぞ。

 ヨハン:さすがサイモン殿、あのヒースとミツヤ達イントルにビシッと言ってやりましょう!

 サイモン:……そこが君のいいところかもしれないな。次回第15話、「カスのリーダーは信頼の証」。

 ヨハン:全国のサイモン&ヨハンのファンの皆様、我々との最後の集会でお会いしましょう!

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