概要
科学技術の進歩は、人間を神に近づけなどしなかった。
ただ、人間がいかに不潔で、欠陥だらけの有機物であるかを暴き立てただけだ。
私は、8K映像の修正職人(レタッチャー)。
来る日も来る日も、高解像度のモニターの中で他人の毛穴を消し、血管を塗り潰し、生きている痕跡を殺す仕事をしている。
肉体は汚らわしい。代謝も、排泄も、老いも、すべてが美を損なうノイズだ。
だから私は、電子の海に「ハク」を創造した。
性別を持たず、汗もかかず、老いることもない、絶対零度の美のイデア。
だが、一月の雪が降る夜。私の無菌室に、資本主義と肉欲を纏った俗世の泥が侵入する。
神聖なイデアが「消費される肉」へと堕とされようとした時、私は一つの決断を下す。
美が美のまま永遠になる
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!怖いのに理解できてしまう——本気の愛情が生む危うさ
この作品は正直、かなり危ないです。
思考の行き着く先が鋭すぎて、読む側の状態によっては心を引っ張られるタイプの物語だと思います。
ただし同時に、冷静に俯瞰できる人にとっては、かなり多くの「学び」を含んだ作品でもあります。
物語が描いているのは、「本気で何かを愛してしまった時、人の思考はどこまで極端になりうるのか」 という、とても人間的で、目を背けにくいテーマです。
主人公の思考は、極端ではありますが、"愛情"という感覚の延長線上にあり、完全に他人事として切り捨てられない説得力があります。
だからこそこの作品は、「分かる」と感じた瞬間から一気に怖くなる。
理屈が通ってしまうからこそ、否…続きを読む - ★★★ Excellent!!!凍てつく純化が暴走する、電子信仰の現代ドラマ
『一月、電子の雪原にて屠(ほふ)る』は、冷たく澄んだ“美”に取り憑かれた語り手が、現実の湿度や匂いを「ノイズ」として拒み続ける――そんな息苦しいほどの純度で始まる現代ドラマやねん。
舞台は、8Kの高解像度モニターの向こう側。毛穴を消し、血管を塗り潰し、“生きている痕跡”を殺していく仕事の手触りが、やけにリアルに迫ってくる。そこで語り手が創り上げたのが、性別も汗も老いも持たない、絶対零度みたいな存在……「ハク」。
この物語が上手いのは、テクノロジーを単なるガジェットとして扱わへんとこやと思う。
電子の美しさは“救い”にも見えるのに、同時に、それを守ろうとする意志がどんどん危うい方向に研ぎ澄ま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!描写過多であるということに意義がある
主人公はかなり鬱屈して、嫌になって、気にせずにはいられないでいる。目を背けようとしているということは、既に見てしまっている。それ故に言及せずにはいられない。
そういうパーソナリティを踏まえると、表現や描写が膨れ上がっているその部分に、読者の目が向かうという、その読解そのものが、主人公を追い詰めている「過度な認識による苦痛」をトレースしているように思う。
そういうメタ的な面白さだけでなく、シンプルに一人称視点として、主人公が何をみているのか、それがどのような具合で、どのように感じているか、という部分がよくわかるので、私はこの描写密度と質が好きだ。
物語構造を踏まえるとストーリーライ…続きを読む