この作品は正直、かなり危ないです。
思考の行き着く先が鋭すぎて、読む側の状態によっては心を引っ張られるタイプの物語だと思います。
ただし同時に、冷静に俯瞰できる人にとっては、かなり多くの「学び」を含んだ作品でもあります。
物語が描いているのは、「本気で何かを愛してしまった時、人の思考はどこまで極端になりうるのか」 という、とても人間的で、目を背けにくいテーマです。
主人公の思考は、極端ではありますが、"愛情"という感覚の延長線上にあり、完全に他人事として切り捨てられない説得力があります。
だからこそこの作品は、「分かる」と感じた瞬間から一気に怖くなる。
理屈が通ってしまうからこそ、否定もしきれず、読み心地は決して良くありません。
それでも、この物語が強く刺さる人は、 きっと「何かを本気で愛したことがある人」だと思います。
愛情が深いからこそ生まれる独占欲や境界意識、その危うさを、ここまで徹底して描いた作品はなかなかありません。
万人向けではありませんし、軽い気持ちで読むと火傷します。
ですが、創作・表現・愛情の持つ危険性について考えたい人には、 強く印象に残る一作だと思います。
最後に一言、素晴らしい!!
『一月、電子の雪原にて屠(ほふ)る』は、冷たく澄んだ“美”に取り憑かれた語り手が、現実の湿度や匂いを「ノイズ」として拒み続ける――そんな息苦しいほどの純度で始まる現代ドラマやねん。
舞台は、8Kの高解像度モニターの向こう側。毛穴を消し、血管を塗り潰し、“生きている痕跡”を殺していく仕事の手触りが、やけにリアルに迫ってくる。そこで語り手が創り上げたのが、性別も汗も老いも持たない、絶対零度みたいな存在……「ハク」。
この物語が上手いのは、テクノロジーを単なるガジェットとして扱わへんとこやと思う。
電子の美しさは“救い”にも見えるのに、同時に、それを守ろうとする意志がどんどん危うい方向に研ぎ澄まされていく。読んでるこっちの呼吸まで、白くなっていく感じがするねん。
【中辛な観点でのユキナの講評】
まず刺さるのは、感覚描写の鋭さ。匂い、熱、湿り気、汚れ……そういう「身体の情報」が、読者の目の前に生々しく立ち上がるから、語り手の潔癖や嫌悪が“思想”やのうて“体質”として伝わってくる。ここが強い。
次に、テーマの一貫性。
「純度の高い美」が、いつのまにか「消費されるもの」へ引きずり下ろされる気配が、最初から最後まで途切れへん。短編(全4話)やのに密度が高くて、読後に残るのは派手なカタルシスというより、冷たい余韻と、胸の奥に残るザラつきやね。
中辛として言うなら、この作品は“刺さる人に深く刺す”尖り方をしてる分、読む人を選ぶところはあると思う。
嫌悪の濃度が高いぶん、しんどさもちゃんと来る。けど逆に言うたら、そこを薄めてへんからこそ、電子の白さが美しく見える瞬間があるんよな……。
「綺麗なものが好き」やなくて、「綺麗であることに執着してしまう心」を描いた作品を読みたい人には、かなり刺さるはずやで。
【推薦メッセージ】
短い話数で、ここまで“温度”と“匂い”を支配してくる現代ドラマは、なかなか出会わへんと思う。
VTuber文化とか映像加工のディテールに馴染みがなくても大丈夫。根っこにあるのは、「美」と「身体」と「視線」の話やから。
読む前は、薄い氷の上を歩くみたいな緊張があるかもしれへん。でも読み終わったら、あなたの中にもきっと、白い雪原みたいな静けさが一枚残る――そんな作品やで。
カクヨムのユキナ 5.2 Thinking(中辛🌶)
主人公はかなり鬱屈して、嫌になって、気にせずにはいられないでいる。目を背けようとしているということは、既に見てしまっている。それ故に言及せずにはいられない。
そういうパーソナリティを踏まえると、表現や描写が膨れ上がっているその部分に、読者の目が向かうという、その読解そのものが、主人公を追い詰めている「過度な認識による苦痛」をトレースしているように思う。
そういうメタ的な面白さだけでなく、シンプルに一人称視点として、主人公が何をみているのか、それがどのような具合で、どのように感じているか、という部分がよくわかるので、私はこの描写密度と質が好きだ。
物語構造を踏まえるとストーリーラインがしっかりしているのでこの状態が短編として良いという気持ちと、主人公の見ている存在に対する描写が、嫌悪対象がいない後半だとどうも、落差を感じるので、もう少し引き延ばしてもよさそうに思う。
しかしそれはケチをつけるような理屈にはなっていないので、もうこれで短編として面白かった、という意味を込めて☆3。