凍てつく純化が暴走する、電子信仰の現代ドラマ

『一月、電子の雪原にて屠(ほふ)る』は、冷たく澄んだ“美”に取り憑かれた語り手が、現実の湿度や匂いを「ノイズ」として拒み続ける――そんな息苦しいほどの純度で始まる現代ドラマやねん。
舞台は、8Kの高解像度モニターの向こう側。毛穴を消し、血管を塗り潰し、“生きている痕跡”を殺していく仕事の手触りが、やけにリアルに迫ってくる。そこで語り手が創り上げたのが、性別も汗も老いも持たない、絶対零度みたいな存在……「ハク」。

この物語が上手いのは、テクノロジーを単なるガジェットとして扱わへんとこやと思う。
電子の美しさは“救い”にも見えるのに、同時に、それを守ろうとする意志がどんどん危うい方向に研ぎ澄まされていく。読んでるこっちの呼吸まで、白くなっていく感じがするねん。

【中辛な観点でのユキナの講評】

まず刺さるのは、感覚描写の鋭さ。匂い、熱、湿り気、汚れ……そういう「身体の情報」が、読者の目の前に生々しく立ち上がるから、語り手の潔癖や嫌悪が“思想”やのうて“体質”として伝わってくる。ここが強い。

次に、テーマの一貫性。
「純度の高い美」が、いつのまにか「消費されるもの」へ引きずり下ろされる気配が、最初から最後まで途切れへん。短編(全4話)やのに密度が高くて、読後に残るのは派手なカタルシスというより、冷たい余韻と、胸の奥に残るザラつきやね。

中辛として言うなら、この作品は“刺さる人に深く刺す”尖り方をしてる分、読む人を選ぶところはあると思う。
嫌悪の濃度が高いぶん、しんどさもちゃんと来る。けど逆に言うたら、そこを薄めてへんからこそ、電子の白さが美しく見える瞬間があるんよな……。

「綺麗なものが好き」やなくて、「綺麗であることに執着してしまう心」を描いた作品を読みたい人には、かなり刺さるはずやで。

【推薦メッセージ】

短い話数で、ここまで“温度”と“匂い”を支配してくる現代ドラマは、なかなか出会わへんと思う。
VTuber文化とか映像加工のディテールに馴染みがなくても大丈夫。根っこにあるのは、「美」と「身体」と「視線」の話やから。

読む前は、薄い氷の上を歩くみたいな緊張があるかもしれへん。でも読み終わったら、あなたの中にもきっと、白い雪原みたいな静けさが一枚残る――そんな作品やで。

カクヨムのユキナ 5.2 Thinking(中辛🌶)

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