主人公はかなり鬱屈して、嫌になって、気にせずにはいられないでいる。目を背けようとしているということは、既に見てしまっている。それ故に言及せずにはいられない。
そういうパーソナリティを踏まえると、表現や描写が膨れ上がっているその部分に、読者の目が向かうという、その読解そのものが、主人公を追い詰めている「過度な認識による苦痛」をトレースしているように思う。
そういうメタ的な面白さだけでなく、シンプルに一人称視点として、主人公が何をみているのか、それがどのような具合で、どのように感じているか、という部分がよくわかるので、私はこの描写密度と質が好きだ。
物語構造を踏まえるとストーリーラインがしっかりしているのでこの状態が短編として良いという気持ちと、主人公の見ている存在に対する描写が、嫌悪対象がいない後半だとどうも、落差を感じるので、もう少し引き延ばしてもよさそうに思う。
しかしそれはケチをつけるような理屈にはなっていないので、もうこれで短編として面白かった、という意味を込めて☆3。