最近自分の文章がおかしいなあ(感覚で言うと綺麗じゃないという感じ)と思ったのでしばらく書くのをやめて、人の文章を参考にしつつ問題点を分析していました。あと公募に落ちて、さらに分析したろかという気になったので一つやってみます。読んでくださる方には何の参考にもならないかもしれません。一人壁打ちです。
(1)文章が酷くなったので何とかしたい問題
今は下書きに戻してしまいましたけど、「五月女凛は居眠りしない」の文章には何か足りねえ、というか酷いなと思ったんです。
最近だと一番よく書けたかなと思ったのが「極夜が明けると」なので比較しつつ分析します。
【五月女凛は居眠りしない】
「その間、みんなスリッパを借りているんですけど……」
問題はそのスリッパの扱いが雑で、来客用のスリッパを履いたまま校庭に出たりする生徒がいたため、とうとう担任が怒りだした。原因が上履き紛失にあると知り、ホームルームで上履きを隠しているのは誰かと詰問したが誰も名乗り出ない。そこでクラス委員の畑野に調査が命じられた。
「体育の時間や放課後、それとなく下駄箱を見張ってみたんですが、何もわかりませんでした。なくなった子たちにも聞いてみましたけど、心当たりは特にないようで」
五月女は腕を組む。いじめ案件ではなさそうなのはよかったが、繰り返し上履きを盗んでは返すなどという悪戯を放置しておくわけにはいかない。しかしどうやって犯人を捕まえたらいいのだろうか。
【極夜が明けると】
冬の間に流氷に打ち据えられて壊れていればいいのに、という願いも虚しく、小舟はあちこち傷はあるものの船本体は無事なまま水上に浮かんでいる。ジナは杭に結ばれた舫綱をじっと見た。今このもやい結びを解いてしまえば、カイルの旅支度は文字通り水泡に帰す。手を開いたり握ったり、ジナは何度も舫綱に手を伸ばしたけれども、どうしても結びに手をかけることができなかった。
「ジナ……」
(略)
「……この船は、あなたの船じゃない」
自分の口から出た言葉の場違いさに、ジナは思わず苦笑いしそうになった。そんなことはカイルだって承知だ。家族も集落の人々も顧みずに村を出ようという人間が、今さらザックに義理立てなどするものか。
「……知ってる」
カイルの口からも間の抜けた返事が返ってきた。なんだこのやりとりは。ジナは苛々して声を荒らげた。
こう並べると、なるほどと自分でも思うのですが、「五月女」の方は「説明」が過多になっています。ミステリなんで情報を読者にわかりやすく伝えることは必要です。が、あまりにも地の文で報告と説明を繰り返している。畑野の造形はかろうじてセリフに現れるのみです。それに対し、「極夜」の方は「手を開いたり握ったり、ジナは何度も舫綱に手を伸ばしたけれども、どうしても結びに手をかけることができなかった。」と動作を描くことでジナの内面を間接的に表現しています。また、「……この船は」から「……知ってる」の掛け合いは読者に情報を渡さない「無駄」なやり取りですが、これがあることで二人の関係や、言葉にできない感情が立ち上がっています。
これを「五月女」と同じように書くと「ジナは船を流そうかどうしようか迷った挙句、結局できなかった」と書いてしまうでしょう。
緩急をつけるために描写を省いて説明で端折る部分は当然あるでしょう。しかし「五月女」はほぼ全編、説明説明説明でした。
ただ、最後の最後、つむぎとの出会いのシーンだけは小説になっています。
【五月女凛は居眠りしない】
切れ長の目が開き、一瞬、五月女の足元を見る。そして五月女の顔を見上げると、にこっと笑った。
「あら。随分と可愛い人ね。わたしに何のご用かしら」
五月女は口をぽかんと開けた。かわいい? 初対面の上級生に向かって? いやいや、わたしはさっき名乗らなかった。彼女はきっと、同学年と勘違いしているに違いない。きっとそうだ。
その瞬間、目の前の少女がさっき、自分の足元に目を落としたのを思い出した。
(この子、絶対見てた。わたしの上履き)
ここだけは、つむぎと五月女の様子が頭の中に浮かんでいるので、それを「描写」しています。ところがそれ以前は、論理と謎解きが頭の中にあって、それを伝えるために書いている。だから「説明」になってしまった。
これは小説の構造、カイルとジナの関係を描いた「極夜」と、上履き盗難事件のミステリ「五月女」の違いに由来するものかもしれませんが、それだけではなく、「五月女」の方は分かりやすく言えば「手抜き」しています。
というのも、「極夜」は特にプロットのない一発書きではあるものの、何日かかけてシーンごとの表現も都度都度考えながら書いたものです。それに対して「五月女」は、謎を思いついた瞬間に三時間くらいで書き上げたもの。表現を丁寧に考えもせず、最短距離で謎と論理だけを書いたのです。言わば、プロットに毛が生えたものを作品だとしてしまった。
今回の場面なら、たとえば以下のように書くべきだったと思います。
【五月女凛は居眠りしない(改稿版)】
「その間、みんなスリッパを借りているんですけど……」
畑野は顔を顰め、上履きに目を落とした。片足立ちになって靴裏を見ると、ポンポンと叩いてごみを払う。
「スリッパのまま校庭に出ちゃう子もいて、しかも来客用で」
担任が怒ること怒ること、とため息を吐く。肩をすくめて、その責任をわたしが取らされるんですよ、とぼやいた。
「あなたが? なぜ」
五月女の問いに、畑野はもう一度肩をすくめた。
「クラス委員だからって。スリッパの使い方を注意しろ、いったい何が起こっているか調べろって言うんです」
五月女はキッと眦を上げた。
「それを畑野さんにだけ責任を負わせるのはおかしいわよ」
畑野は驚いた顔をしたが、頭を下げた。
「ありがとうございます。でももう調べちゃいました。体育の時間や放課後、それとなく下駄箱を見張ってみたんですが、何も起きませんでした」
骨折り損です、と苦笑する。
「一応、上履きがなくなった子たちにも聞いてみましたけど、心当たりは特にないようで」
五月女は腕を組む。いじめ案件ではなさそうなのはよかったが、繰り返し上履きを盗んでは返すなどという悪戯を放置しておくわけにはいかない。
しかしどうやって犯人を捕まえたらいいのだろう、五月女は首を捻らざるを得なかった。
あとですね。別の意味で説明が多くなりすぎることがあります。「探偵つむぎはだいたい寝ている」で、啓祐は突っ込み役として内心でつむぎに突っ込みまくっていますが、それが突っ込み芸ではなく、ただの状況説明になってしまっているシーン。
【探偵つむぎはだいたい寝ている】
つむぎは目を開いて、先輩をまっすぐに見据える。
「あの行動は、信用を高めるねらいだったんでしょうね。でもわたしには真逆でしかなかった」
まったく、こいつの演技も大したもんだ。そんな様子はおくびにも出さず、先輩に憧れる後輩を完璧に演じてたわけだからな。
おそらく後半の二行がなくても、読者には「つむぎが樫村に好意を寄せていたのは全部演技だった」とわかっていると思います。ところが不安なのか、失礼な話ですが読者を信用していないのか、わざわざ啓祐に「解説」させています。この手の表記は結構ありました。
以上のように、わたしの文章の悪いところは手癖とも密接に関係があり、すぐに説明過多になってしまう、あるいは説明だけになってしまうことです。これらを踏まえつつ、書くことにもう少し時間をかけ、論理だけではなく場面を描くことを意識したいと思います。
(2)自分の小説はコンテストに向いているか問題
もう一つの話題は自分の小説は公募向きかどうかです。コンテストに出している「探偵つむぎはだいたい寝ている」を分析します。
その前に、ここ一週間ばかり、完結以来ほぼPV無風状態だった「つむぎ」を完読してくださった方が四人もいらっしゃいまして、大変嬉しく思っています。14万字を読み切るのは決して楽ではなかったと思います。諸秋 来様、エンガワ様、宮城上様、四谷軒様、誠にありがとうございました。レビューまでくださった方もいて、感謝の念でいっぱいです。
さて本作ですが、本命ではないものの出していた「創作大賞」は見事にすっ転んでいます。まあ文字数オーバーでルールに沿えば最終話の途中までしか下読みの方には読んでもらえないのですが、そこまで読めばだいたいわかるのでそれは落選にはたぶん関係ないと思っています。
するとまず考えられるのは「単純に面白くなかった」ということですが、これを言い出すと全部終わるんで、読んでくださった皆様の感想を信じることにして、一応面白さはある、という前提で問題点を考えてみましょう。
この際、手掛かりになるのは中間選考を通過した作品との比較です。何作か読んでみて、自分の作品にないものが何となくわかった気がします。
まず第一に、「探偵つむぎ」には「入口のフック」がほぼありません。
冒頭、登場するのは学校のパンの購買、出てくるのは五月女と啓祐だけ。主人公のつむぎはちっとも出てきません。やっと出てきたと思ったら、寝る(笑)。まあ寝るというのがフックといえばフックですが、やる気のないダウナー系の女子高生というのは、何か既視感のあるキャラクターです。舞台も普通の高校。このあたりで「ありきたりの舞台、キャラだな……」と見限られてもおかしくありません。
選考に通った作品は、わたしが読んだ限りでは、読者に「この小説はこういう小説ですよ」という約束事を早い段階で渡していました。「つむぎ」は一話の中盤でようやく、「どうやら探偵が寝て、ワトソンが引き継いで推理する小説らしい」と読者に伝わりますが、遅い。
第二に、どういう小説なのか、言わば「企画意図」を一つに絞りきれていないこと。
「謎を解きかけて寝てしまう探偵が残した言葉をヒントに、ワトソン役や読者が謎を解く小説」というのは「つむぎ」の一側面です。謎を解いてみたら当初の見立てとは全然違う構図が現れるとか、五月女という人物に象徴される生徒会による学園自治の話だったりとか、啓祐とつむぎの関係そのものを謎に絡めてみたりとか、小説の軸が何本もあります。これらを読者の皆さんがそれぞれ一つ以上楽しんでいただけたようなので、良く言えばバラエティに富んだ小説と言えなくもない。しかしこれは弱点でもあって、結局どういう小説なのかを作者も一言で言えない小説になっています。これに対し選考通過した小説は、企画意図は非常に明確でした。
第三に、面白さがじわじわとしか立ち上がらないこと。
先に述べたように、本小説は「探偵が寝てワトソンが推理するミステリ」という主軸はあまり強くなく、太めのサブ軸が何本も走っています。それらはだんだんと絡まり合って最終話で全部繋がる構造になっていますが、そこまで待たないと面白さのピークに到達しません。スロースターターな小説です。特に序盤の牽引力は強くないので、軸のどれかに引っ掛かってくれた人でないと読み進めてもらえません。それに対し選考突破作品は、各話の牽引力が強く、極端に言えばシーンごとにヤマがある。漫画の作劇に近いものが多かったです。
とまあ、弱点、問題点だらけですね。作品そのものの質を必ずしも損なうわけではありませんが、少なくともコンテストでは不利に働く可能性があると思います。
では、改善の処方箋はないのか。
本作が本作である以上、なかなか難しいように思います。上に挙げた問題点だと、一番目くらいしか改善できなさそう。第一話でさっさとつむぎを出しておくべきだったかな、と思います。そうすれば、冒頭のフックが強くなりますし、二番目の問題点もある程度緩和されるかもしれません。
ただ、いずれにしろナツガタリの締切は過ぎているんで、今更どうにもなりません。そもそも構造的に改稿困難な点も多いので、本分析は次にコンテスト向けの小説を書く際の留意点として残しておくかな、という感じですかね。
長くなりました。もし他山の石になるようでしたら、どうぞ役立てていただければと思います。