謎よ…もっと深まれ!

うまい。日常ラブコメだと思わせて、きれいに不安とオチを回収してきたな、という感想でした。

全体を通して秀逸なのは、
夫の視点に徹底的に寄り添わせる構成です。

冒頭の「定時上がり」「秒で既読」「ハート多めのスタンプ」など、
新婚の甘さが軽快に描かれていて、読者は一気に安心圏に入ります。

そこから一転、
ケーキ。ろうそく。
「あっくん、おめでとう~♡」

この瞬間の「何のおめでとうだ?」という焦り。
既婚・未婚を問わず、「記念日を忘れたかもしれない恐怖」は誰にでも刺さる普遍ネタで、
心理描写もテンポも非常にうまいです。

内心のモノローグが少しコミカルで、
それでいて「最悪、離婚にまで発展するケースもあるとか」という誇張が
不安を必要以上に膨らませてくれるのも◎。

情報の出し惜しみが巧妙
カレンダーの赤丸、先月にも付いている描写は特に秀逸でした。

つまり、先月の今日、俺が何かやったんだ。
ここで読者も一緒に推理を始める構造になっていて、
主人公と完全に思考が同期します。

しかも、
誕生日ではない
結婚記念日でもない
出世や免許でもない

と、可能性を一つずつ潰していく過程が自然で、
「わからない状態」を引き延ばすストレスが心地いい。

ラストの“静から動”の転換

翌日の不穏な展開――既読が付かない、家が暗い、靴がない。
ここで一瞬、
「あ、これ修羅場か?」
と読者に思わせるのが上手い。

その直後の、
パン! パン! パパン☆
このクラッカー音で、一気に空気が反転する爽快感。
ホラー寸前から祝福への切り替えが鮮やかで、
短編として非常に気持ちのいい着地です。

「なんの?」で終わるのも、
答えを明かさないことで余韻と笑いを残していて、
この作品のトーンに合っています。

ほっこりして、ちょっと笑えて、読み味が軽い良作短編。

その他のおすすめレビュー

スター☆にゅう・いっちさんの他のおすすめレビュー380