いわゆる「悪役令嬢(当て馬令嬢)転生もの」の王道設定を踏まえつつ

いわゆる「悪役令嬢(当て馬令嬢)転生もの」の王道設定を踏まえつつ、感情描写と現実的な判断の積み重ねによって、非常に読み応えのある作品でした。

まず特筆すべきは、主人公ヴィクトリアの内面描写の丁寧さです。
婚約者である王太子の変化に戸惑いながらも、「自分が悪役になる前」の段階で前世の記憶を取り戻すことで、感情と理性がせめぎ合う様子が非常にリアルに描かれています。単なる「断罪回避したい!」ではなく、

婚約破棄は望むが、断罪は避けたい
家族が味方にならない現実
王族と貴族社会の力関係
逃亡後の生活設計(資金・体力・技能)

といった社会人的視点の危機管理が物語の軸になっており、主人公の行動原理に説得力があります。

また、「チートなし」を明確に掲げている点も好印象です。
聖魔法という強力な要素を得ようとする判断も、私利私欲ではなく「生存と逃亡」という目的に基づいており、倫理的な葛藤を挟むことで軽薄さを感じさせません。
「王都が危険になるかもしれない」という可能性を無視しきれず、陰から支援する覚悟を決めるくだりは、主人公の誠実さと賢さが伝わってきます。

月の女神と呼ばれる高嶺の花が、実は不器用で、少し照れ屋で、好奇心旺盛な少女であることが、第三者視点によって自然に浮かび上がります。
読者にとっては既に親しみのある主人公が、作中人物の目にはどう映っているのかが分かり、恋愛フラグの立ち上がりとしても非常に美しい構成です。

さらに、当て馬令嬢同士の連帯や、原作ゲームに存在した「地雷イベント」を避けようとするメタ的な緊張感も良いスパイスになっています。
物語の強制力を意識しつつ、あくまで「関わらない」「距離を取る」という選択をする主人公の慎重さが、より感情移入しやすくなりました。

非常にバランスの取れた面白い作品だと感じました。

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