この短編は、日常の手触りと宇宙的な感覚が、違和感なく同じ呼吸で並んでいる点が魅力的。北欧のセピア色の風景から始まり、ヨウコさんの視界にだけ立ち昇る“光線”が、物語の重力をそっと変えていく。色は象徴ではなく現象として扱われ、人物の本質や出自を示す「物理的な徴」として存在しているのが面白い。
特に、店員の背からゆらと立つ淡いピンクの光線が「昴からのひと」と直感される瞬間、世界の境界が音もなくずれる。読者は説明ではなく“観測”としてその変化を受け取ることになる。
ヨウコさんがこれまで見てきた光線の一覧も、単なる設定の列挙ではなく、彼女の人生の断片として自然に溶け込んでいる。物理教師の黄緑、製鉄所の上司の橙、親戚の老女の紫――色彩がそのまま人間関係の記憶になっている。
後半の「巨星墜つ」のくだりは、政治的な現実を寓話的に処理しつつ、宇宙規模の“回収”として描くことで、地球の混乱すら大きな秩序の一部に見えてくる。
ヨウコさん自身がオリオン由来という示唆も、物語を閉じるのではなく、むしろ広げる方向に働いている。彼女の視界が特別なのではなく、彼女が“こちら側ではない”からこそ見えているのかもしれない、という余白が残る。