ミステリーのお約束と妖怪が掛け合わされ、笑いと驚きの化学反応を起こす。
- ★★★ Excellent!!!
「特定の怪異と似通った怪異が、時代や場所によって亜種として存在する」というのは、妖怪譚や都市伝説だと非常によくある事例です。
現代怪異「赤い服の女」には「赤いマフラーの女」「赤いヤッケの女」、さらには「赤マント」といったバリエーションが存在しますし、古典妖怪「見上げ入道」にも「見越し入道」「入道坊主」というような類例あるいは別称が存在します。
実はかの有名な「のっぺらぼう」も、その例に漏れません。小泉八雲の著作では「貉(むじな)」なる怪談の中で語られ、どうやら狸の類が人間を驚かすために顔のない化け物を装ったらしいということになっているわけですが、他に不気味な肉塊の怪物「ぬっぺっぼう」、別称の「ぬっぺら坊」「ずんべら坊」などなど、多様な亜種が知られています。
さて、メジャー妖怪だけあってバリエーション豊富なのっぺらぼうですが、そんな彼が意図せずミステリー作品のお約束「顔のない死体」シチュエーションと遭遇したとき、思いも寄らぬ状況が発生してしまいます――
そう、何しろ妖怪のっぺらぼうには、事件の被害者と同じく、顔が存在していないのですから!
こちらの作品では、かくいうアクロバティックな展開がコメディ仕立てで描かれています。古典ミステリー&古今の怪異譚好きなら、すでに設定だけでも笑えてしまいそうですが、通読してみるとなるほど妖怪というものを上述したような概念レベルの部分含め、巧みに利用して物語が綴られていました。読んでいる最中、「なんか登場人物のみんな、のっぺらぼうのことを他の亜種怪異か何かと勘違いしてない? 大丈夫?」などと感じたとしても、それさえ作者さんの計算のうち。
最後のオチに独特な解釈でひと捻りある部分まで、大変楽しい一作です。