概要
サバランが結ぶ過去と現在、母と娘の物語
ある日私は駅のホームで老紳士の話を漏れ聞く。老紳士はオオミヤのサバランなるものを食べたくて仕方ないらしい。老紳士の様子に惹かれて、私は母にサバランの話題を振る。どうやら母にとってもオオミヤのサバランは思い出のケーキらしい。母が語る大学時代の話と、私に芽生えた母への疑惑。サバランが結ぶ家族の物語です。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!洋菓子は記憶を呼び覚ます。過ぎ去った時間を今、穏やかな味わいに変えて。
プルースト『失われた時を求めて』は、マドレーヌの香りが記憶を掘り起こし、物語が幕を開けます。
一方、こちらの作品でその役割を担うのは、ケーキのサバランです。
洋菓子を懐かしむうちに話題が広がり、「私」は母親が語る学生時代の思い出から、両親の馴れ初めに今一人の女性(晴香)が関係して、むかし複雑な恋模様が繰り広げられていた事実を知ることになるわけです。
途中、三角関係の恋愛になぞらえて、夏目漱石『こころ』の解釈を巡るやり取りにも発展しつつ、今まさに青春のさなかにある「私」と過ぎし日を振り返る母親の、事物に対するそれぞれの見方が交錯します。
文体は知的でありながら柔らかく、軽やかさと温み、多層的な…続きを読む