最弱アイテムボックスが悪魔契約で覚醒、成長が痛快な逆転譚。
- ★★★ Excellent!!!
主人公ソラの強みが、最初から「勝てる力」ではなく「積み上げる余地」として置かれている点が、この作品の読みやすさにつながっている。Cランク止まりで切り捨てられ、家賃も払えない現実から始まり、拾った黒猫が悪魔だったという一点で物語が一気に動き出す。ダンジョン帰りの夜道の静けさや貧しさの手触りを先に置くため、「契約」や「回帰」の導入が軽くならない。
第10話までで印象に残るのは、成長が「努力」と「契約の補助」の両輪で描かれているところだ。クロは万能ではなく助言しかできない制約があるため、走り込みや自重トレーニング、魔力循環といった基礎の反復が前に出る。そこへ「猫と会話している変人に見える」問題が挟まり、張り詰め過ぎない呼吸が生まれている。
具体的な山場として、第7話の「100個目の魔石」が区切りとして気持ちよく決まる。吸血コウモリを数で狩る単調さに、疲労や小さな負傷、ペース調整の現実味を足し、積み上げた数字が「贄」として働いて《雷魔法》に繋がる。強化の手順が見えるまま、戦うための牙が生まれる瞬間がはっきりしている。
学園編に入ると、校長ショーイチローの圧と因縁の相手カイトの距離感が早めに配置される。第10話で誘いを保留にする判断は、前世の悔しさを抱えた主人公として自然で、今後の駆け引きの火種になる。同時に路地で銀髪の少女に踏み込む流れが、ソラの性格を行動で示し、ヒロイン登場が作業に見えにくい。人間関係の熱が上がっていく入口として、続きを読みたくなるところまで届いている。
注
ネタバレを避けるため、序盤の10話までのレビューとしました。