復讐譚でありながら、 同時にこれは「再生の物語」でもある

三十五歳、非戦闘系スキル、仲間に切り捨てられ、満身創痍で生き延びる日々――この出だしだけで「よくある最弱転生もの」とは一線を画しています。若者ではなく、一度人生に敗れ切った男を主人公に据えたことで、後悔・諦観・自己否定が非常にリアルに描かれており、序盤から感情移入しやすい構成でした。

そして黒猫クロの存在がとても良い。
単なるマスコットや便利な指南役ではなく、

主人公を唯一慕ってくれた存在
天使と悪魔を封じた「第十の祝福者」
復讐という明確な目的を持つ存在

という三層構造になっていて、癒しと不穏さが同居しているのが魅力です。特に「力を失い、語ることすら封じられた存在」という設定が、万能感を消し、物語に緊張感を与えています。

この作品は、「努力は裏切らない」ではなく、
「努力を続けられる人間だけが、裏切られない」物語です。

派手さよりも信頼感があり、
読者はソラを“応援する”というより、
一緒に息を切らしながら歩く感覚を味わえる。

復讐譚でありながら、
同時にこれは「再生の物語」でもある。

静かで、誠実で、芯が強い良作です。

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