少女の冬、初潮の鉄と友情の緑、静かな雪景色まで胸に刺さる、いつまでも。
- ★★★ Excellent!!!
『由衣ちゃんの血を舐めたい。』は、寒い朝のだるさ、給食のけんちん汁の温度、教室の風の唸りみたいな「身体の手触り」から、じわじわと心の奥へ入ってくる物語だ。小5の世界の解像度が高く、ふざけ合いと気遣いが同居する会話が、そのまま不穏の土台になる。
白眉は「緑のカエルの羽」の場面だ。転んだ早苗の異変に、由衣が鋭い声で男子を退かせ、脱いだ体操服で腰から下を覆い隠す。その一連が速く、正しく、やさしい。緑の布が翼みたいにひらりと舞う瞬間、羞恥が防壁に変わり、読者の呼吸もいったん整えられる。なのに後段で、祈りの形をした感情がじわりと別の顔を見せ、タイトルの残酷さが「言葉の遊び」ではないと分かって背筋が冷える。雪の静けさで締める終わり方も、余韻が鋭い。