土佐日記には描かれなかった、若人たちの苦悩と冒険と恋慕

本作は、紀貫之の従者の男装少女・朱鷺と、貫之の甥・鷹晴を中心とした、呪いと愛の因果の絡む歴史ファンタジーです。
実際に『土佐日記』の中にあるエピソードの裏側を埋めるような形で、物語が組み上げられています。

メインとなるのは、失われた朱鷺の記憶と、立ち寄った村で襲ってきた物の怪と、鷹晴と共に受けてしまった呪いの謎。
ホラミス要素のあるストーリーに加えて、鷹晴に信頼を寄せる朱鷺と、朱鷺が少女であることに気付いて密かな想いを寄せる鷹晴のもどかしい関係性が、彩りを添えます。

記憶を掠める村の風景、朱鷺が持っていた櫛、髪の物の怪……
散りばめられた伏線がかちりと嵌った瞬間の気持ちよさと言ったら!
恋愛ものの名手である作者さまが敢えて甘さ控えめに抑えた恋愛描写も、絶妙なバランスで差し込まれており、お見事です。

物語の終盤に出てくる「貫之が詠んだとされる歌」が、朱鷺の心境に寄り添うように印象的に使われていて、作者さまの腕を感じました。
聖地巡礼をしてみたくなるような、読み応えあるお話でした。
とても面白かったです。多くの方に読んでいただきたい作品です!

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