悠久の、そして孤独な魂の遍歴を綴った物語

 雰囲気抜群。そして思わぬ形で壮大に展開していく物語に惚れ惚れとさせられました。

 主人公は病に伏せる一人の男。その男のもとに行商人が現れる。
 半ば腐ったような腕を示し、それが人魚の肉なのだと語る。それを食べれば死なない体になれるが、「人魚は執念深い」ために海には近づいてはいけなくなると告げてくる。

 酔狂だと思って人魚の肉を口にする男。そして伝承は本当だとわかり、彼は決して死ぬことも老いることもない体に。

 それから先の、悠久とも言える彼の物語が、ひたすら強く心に響いてきました。不老不死であるために帰属する社会を持てない苦悩。長い年月を生きることでめまぐるしく変わりゆく社会。

 そんな数百年にも及ぶ物語を一挙に味わうことが出来、胸がいっぱいになりました。
 
 この苦悩と孤独の果てに彼がどのような結末を迎えるのか、是非とも本編を紐解いてみてください。

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