「小さな希望」でも必死に縋り、懸命に生きる彼ら。その姿に胸を打たれます

 出てくるみんなが本当に健気で、切ない気持ちにさせられました。

 主人公フィンは旅芸人の一座で働いている。「フィン」はかつて笛が上手だとされていたが、ある時に事故に遭ってからは笛を吹くことが不可能になっている。

 そんな葛藤を覚える日々を送りつつ、同じ一座に属する舞手のプロムと一緒に過ごす時間を送る。
 プロムがどうしてそんなに舞に力を入れるのか。誰かに見初められるのを目指しているのかとフィンはひねた想いにも囚われそうになる。

 やがて、プロムの真意を知ってから、フィンは心を揺さぶられることに。

 フィンもプロムも、旅芸人の一座という決して楽ではない生き方を続けている。この先も立身出世の機会なんてあるかどうかもわからないし、豊かでない状態は続くかもしれない。
 それでも、「小さな何か」に必死に縋って希望を繋いでいこうとする。そんな姿が自然と胸を打ちます。

 でも、「フィン」の抱える事情はもっと複雑なものも。

 本編を一度読み終えてからまた冒頭に戻ってみると、何やら不穏な描写が入っていることに改めて気づきます。それで「何か」があったことを察することに。

 この物語のあと、「フィン」とプロムの関係はどうなっていくのか。そして旅芸人一座の中での彼はどのような未来を迎えるのか。

 必死に生きている彼らに、何かの希望があればいいな、と思わされました。

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