突出した芸術という「深淵」の何か。それに触れた時、「正常」が侵される

 芸術。それは狂気と紙一重の領域にあるものだ、としばしば語られることがありますね。

 天才の精神の発露。それを形にしたものである以上、それは「正気」とは別の領域に所属するものなのかもしれない。

 そんな芸術作品に取り憑かれることは、日常、ないしは正常な世界を徐々に侵食されることになるのかもしれません。

 本編の主人公も、幼いころに見た「モナ・リザ」の迫力に心を奪われます。
 あの不思議なアルカイック・スマイル。それが常に頭から離れなくなり、ずっとそのイメージに追い回されるような日々を送ることに。

 結果、ガールフレンドが出来てもうまく関係が長続きせず、「幸せ」をつかみ損ねる日々。「モナ・リザ」の微笑は確実に彼の人生から「何か」を奪い取っていた。

 そうして大学生になった彼の前に訪れた一つの出会い。それが更なる「影」を落とすことに……。

 結局のところ、彼が見ていたものはなんだったのか。
 モナ・リザという突出した芸術というのは、人知の及ばぬ「何か」の領域に踏み入ったものなのかもしれない。だからその先には、やはり人の頭では理解できない「魔」のようなものが宿ることもあるかもしれない。そんな何かに魅入られて、彼は人生を奪われることになったのかも。

 様々な解釈ができるストーリーとラストで、読み終えた後に強烈な余韻を残してくれます。
 「芸術」が人の心にもたらす作用とか、改めて「深淵」のような何かについて想いを馳せてみたくなりました。

その他のおすすめレビュー

黒澤 主計さんの他のおすすめレビュー2,063