欠落を抱えた二人が噛み合う、新時代の現代怪異譚。

暴力と怪異が日常の裏側に沈んでいる2020年の日本を、生々しく描いた作品です。

紫苑の圧倒的なフィジカルと、真帆の「喰らう」異能。
この二つが噛み合った瞬間から、物語はただのバトルものを超えて、互いの欠落を埋め合うロードムービーのような深みを帯びていきます。

文章は硬質で映像的。
退屈を持て余すほど強い紫苑と、記憶の欠片を求めて怪異を追う真帆。
まったく違う方向を向いていた二人が、ひょんな出会いから同じ道を歩き始める姿がとても魅力的で、読み始めた瞬間から一気に引き込まれます。

暴力とグロの匙加減が絶妙で、『呪術廻戦』や『チェンソーマン』的なサブカル感が好きな人には確実に刺さるし、描写のリアリティと知性があるので、大人の読者も楽しめます。
それにしても、治安の悪い街の描写が妙にリアルで、「作者さん、別冊宝島でも参考にしてる!?」と思ってしまうほど、裏社会の存在が濃いです(笑)

そして何よりです。紫苑と真帆の関係性が本当にいい!!
最初は鬱陶しいと思っていた相手が、旅を重ねるうちに「不可欠」な存在へ変わっていく。
友情とも恋愛とも違う、名付けようのない情が静かに育っていく感じがたまらなくて、気づけばこちらまで百合に目覚めそうになります(*´ω`)

祓い屋をはじめとする別勢力のキャラクターたちも、それぞれに背景や葛藤があって、物語にしっかり奥行きを与えています。

怪異の成り立ち、1995年から続く因縁、真帆の失われた記憶――。
点と点が繋がるたびに、世界が広がっていくのが心地よいです。

アクション、関係性、世界観。
その三つが見事に噛み合った、渾身の現代怪異譚の幕開けです。
読んだ瞬間から、きっと、あなたも虜になります。

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