――この世の全てに毒はあるんだよ
- ★★★ Excellent!!!
「この世の全てに毒はある」——この一文に、心を鷲掴みにされました。
悪意だけでなく、幸福や愛情、執着すらも「毒」として抽出してしまう。そんな美しくも残酷な哲学を、喫茶店という舞台に落とし込んだ発想が鮮烈です。
「空っぽの人形」を自認する社畜女子・イッコが迷い込むのは、幻想喫茶「ロバの耳」。
そこにいるのは、無垢な美少年の顔をした毒の魔法使い・マユル坊ちゃんと、巨躯の男性メイド・エミ先輩。
このトリオの配置が絶妙で、導入から一気に物語の空気に引き込まれました。
特筆すべきは、感情を可視化する描写の巧みさです。
金の杯に注がれる毒の色が、赤、青、濃紺、群青と変わり、味や温度、そして音にまで宿る。
美しいのに、どこか背筋が冷える。まるで自分の心の奥底まで覗かれているようで、目が離せません。
各話で客の「毒」を解き明かすミステリー的な構成も見事です。
甘い香りに隠された切実な本音や、何気ない一言が生んでしまった哀しいすれ違い。
言葉の表と裏を丁寧に剥がしていくたび、こちらの感情まで揺さぶられます。
会話のテンポも抜群で、シリアスなテーマを扱いながらも、読んでいる間ずっと心地よかったです。
お洒落で哲学的で、それでいて頷かされる。
毒を愛せと囁く喫茶店で、空っぽだった人形が少しずつ自分の輪郭を取り戻していく物語。
皆様もぜひ、ピーコック・グリーンの瞳に導かれて、幻想喫茶「ロバの耳」へ。