冒頭の不調描写が、そのまま“恋”の伏線になっている

恋に落ちる瞬間の身体感覚を、ここまで丁寧に描いた作品はなかなか無いと思いました。
動悸、息苦しさ、匂い、触感――すべてが「恋」の正体であり、読んでいる側も主人公と同じ不調に引き込まれます。

ヒロインの距離感と無邪気さが絶妙で、分かっていても抗えない主人公の心情がとてもリアルでした。
冒頭とラストで繰り返される「知らない方が幸せだった」という一文の意味の反転が美しく、強い余韻を残します。

甘くて、苦しくて、どうしようもなく惹かれてしまう。
そんな“夏の恋の不幸”を見事に描いた印象的な短編でした。