失敗が祝福に変わる、優しい神事コメディ。

 志草ねなさんの『大丈夫だよ、新人さん』は、村の千年神事と、天界の新人配属という2つの「逃げ場のない初日」を、同じ呼吸で重ねていく短編だ。前編では、踊役として戻された典保の弱気が、田舎の閉じた視線や「滅亡するよ」という過剰な期待とぶつかり、笑いながらも胃のあたりがきゅっとなる。けれど舞台が社の中に入った瞬間、物語は一気に神話側へ傾き、そこにいるはずのない女神が現れる。典保が踊りを忘れているのに、窮余の策でラジオ体操を「踊り」として差し出してしまう場面が、この作品の芯だと思う。最悪の失敗に見えるのに、女神が目を輝かせて拍手し、典保は土下座で謝るしかないのに、肩に触れられて「大丈夫だよ」と言われた気になる。その一連が、伝統に押し潰されそうな人間の側へ、神のほうが歩み寄ってくる形になっていて、優しさが理屈ではなく出来事として届く。

 後編は視点が反転し、今度は「新人さん」が新任の守り神として放り込まれる。引き継ぎゼロ、周囲も役所も頼りにならないのに、「困った時はにこっと笑うこと」という雑な助言だけが支えになる。その新人神が社へ飛び込むと、そこには眼鏡の青年がいて、酒をこぼし、床に撒き、見慣れない踊りを披露する。神の側から見れば、典保の失敗は「清め」や「作法」に見えてしまい、さらにラジオ体操が「格好いい踊り」として成立してしまう。この認識のズレが、相手を責める方向ではなく、お互いの緊張をほどく方向に働いているのが巧い。最後に新人神が説明できない事情を抱えたまま、言葉の代わりに笑顔を差し出し、典保のほうも笑い返す。2話で終わるのに、読後に残るのは「失敗しても場が壊れない」感触で、短編らしい軽さと救いがきれいに噛み合っている。いつも思うけど、上手くオチを付けてくるよね。感心します。

その他のおすすめレビュー

ひまえびさんの他のおすすめレビュー374