いびつに大人びた少女が求めたもの
- ★★★ Excellent!!!
主人公は小学五年生にしては驚くほど、自分の感情を言語化できる子です。嫌いな母親のことも、自分の置かれた状況もそれはそれは客観的に。でも同時に孤独を誰かに助けてもらいたい、唯一の理解者である隣人の「健さん」に甘えたい。そういう年頃でもあります。
しかし彼女はその賢さゆえに「甘えること」の難しさもわかってしまう。本作は彼女の引っ越しを前に、年不相応な内省と、健さんに近づきたくて近づけない終わりが見えるやりとりが静かに綴られます。結局彼女は、冒頭から登場する二つの象徴を手放すことで、健さんとも離れて旅立つ決意を固めるのですが、それは幼いままに彼女の今後の歩き方がうっすら定まってしまう瞬間でもあります。彼女はこの先も、賢さゆえに傷つき、でも賢さゆえに停滞することなく歩いて行くのでしょう。