探偵ものが好きな人ほどニヤリとできる、新感覚ミステリ

「名推理は完璧。でも全部、事件じゃない」というキャッチコピーの通り、ミステリというジャンルの“お約束”を心地よく裏切ってくる作品です。


名探偵・瀬川透の冴え渡る推理は一切曇りがなく、論理も美しいのに、そもそも解くべき「事件」が存在しないというズレが、終始ユーモラスで新鮮な読後感を与えてくれます。

助手の霧島冴との掛け合いもテンポがよく、探偵と助手という定番の関係性をなぞりながらも、「探偵とは何をする役割なのか」というメタ的な問いを自然に浮かび上がらせている点が秀逸でした。

推理が正しいからこそ空回ってしまう瀬川の姿はどこか切なく、それでいて愛嬌があります。


ミステリとしての知的さと、人間ドラマが絶妙に同居しており、「事件が起きないのに、最後まで面白い」という不思議な体験が味わえる一作です。