こんな鬼なら来てほしい! ほっこりあやかし物語

一見すると怪異譚やホラーを想像させる導入ですが、物語は良い意味でその予想を裏切ってきます。

額に残された謎の跡や「あやかし」という存在が示されることで不穏な空気が漂うものの、実際に登場する『やなり』はどこか愛嬌があり、物語全体をやさしく包み込む存在として描かれているのが印象的でした。


日常の延長線上にふっと現れる不思議と、それを大仰に恐れるのではなく受け入れていく主人公の距離感が心地よく、読んでいるうちに自然と頬が緩みます。

後輩との軽妙なやり取りも良いアクセントになっており、物語に柔らかなテンポを与えています。


「あやかし=不穏」という固定観念を崩し、ほっこりとした余韻を残してくれる一作。

読み終えたあと、日常の片隅にもこんな小さな不思議が潜んでいるのかもしれない、と思わせてくれる素敵な短編でした。

その他のおすすめレビュー

汐田 伊織さんの他のおすすめレビュー109