秋の便りがふたつの心を寄せていく、自然美の映える短編です。

彼岸花に赤蜻蛉。秋の深まりを伝える頃、半之丞にとってあこがれの相手・忠弥にほのかな想いを寄せるおはなし。
道場を出て武家町へまっすぐ戻るつもりだった半之丞。青さの残る空からの心地に連れられて久しぶりに河原の景色へといざなわれます。
そして寄り道の先――ススキ野原に忠弥のひとり寝姿を見つけ身を寄せていく。この自然な流れはこころの描写として魅力的です。
ススキの穂をゆらしていくそよぐ涼音の行方が静かなふたりの時間に溶けて心地よく、何気ない会話もいい塩梅。
小さな嘘も、笑って許せる間柄。
たまには寄り道もわるくないですね。
時を感じる心の豊かさが二人の距離を縮める素敵なおなはし。

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