「優しかったからこそ、胸が痛くなる物語」

  • ★★★ Excellent!!!

この作品は、
読んでいる最中に涙が出るタイプの物語ではありません。

でも、
読み終えたあとに、
気づいたら胸がぎゅっと締めつけられている。
そんな物語です。

登場人物たちは、誰も冷酷ではありません。
むしろ、みんな必死で、真面目で、
「間違えないように」行動しています。

それなのに、
少しずつ、少しずつ、
取り返しのつかない距離が生まれていく。

この物語がつらいのは、
悪役がいないからです。
責める相手がいないからです。

「守りたかった」
「助けたかった」
「正しいと思った」

その気持ちが積み重なった先に、
何が残ってしまうのか。

ラストは多くを語りません。
だからこそ、
読者の感情だけが置き去りにされます。

読み終えたあと、
すぐに別の作品を読む気にはなれないかもしれません。
でも、きっと心のどこかに残ります。

静かで、優しくて、
どうしようもなく切ない物語でした。

「泣かせよう」としていないからこそ、
気づいたら泣いてしまう。
そんな一作です。