「月に向けて踊る夜」
- ★★★ Excellent!!!
海と風の明るさがあるのに、読後に残るのは静かな痛みでした。真南風の働く音や息づかいがリズムとして立ち上がっていて、日々の暮らしそのものが「踊り」に近い感触で伝わってきます。
その一方で、理不尽さは容赦なく、周囲の視線や沈黙まで含めて、島の空気がじわじわ重くなるのが怖いほど生々しいです。
夜の浜辺の遠い光と、木陰の涙、その落差がとてもきれいで残酷でした。けれどそこで終わらず、真南風が自分のやり方で立っていく気配が確かにある。読み終えたあと、月の下の静けさと、名前のない存在の気配だけが残って、もう少し先の景色を見たくなります。