「静かな部屋ほど、落ち着かない」
- ★★★ Excellent!!!
読み心地としてまず残るのは、「静かなはずの場面が一番落ち着かない」感覚でした。天井を見上げる部屋の無風の時間、そこに差し込まれる短い声のフラッシュ。言葉数は少ないのに、橘の中だけがずっと忙しくて、読んでいる側も呼吸を合わせさせられます。
場面の切り替えも特徴的で、走っている最中の混乱と、面接の小部屋の居心地の悪さが、別の種類の緊張として並んでいくのが面白いです。特に面接官との空気は、誰かが悪いと断じる感じではなく、「ズレ」がそのまま可視化されていくようで、読んでいて居たたまれないのに目が離れませんでした。
そして、橘自身が「どうしてそう見られるのか」「自分は何をしてしまったのか」を掴みきれないまま進むので、読後に残るのは答えよりも違和感の輪郭でした。あの輪郭の先に何があるのか、もう少し確かめたくなる一作です。