声なき慟哭を、誰にも見せない
- ★★★ Excellent!!!
毒見係が血を吐いて死んだ朝、第一皇女ユーリアは床に座って泣いていた。声を漏らさぬよう口元を押さえて。それを「見るべきではない」と知りながら見てしまった侍従の視点から、物語は静かに幕を開ける。
皇帝の愛人、庶子の異母兄、書類上だけの夫婦、公妾制度を持たぬ宮廷——中世ヨーロッパ史に基づいた緻密な設定が、この世界を「どこかにあったかもしれない歴史」として立ち上げる。
12歳の皇女は母より父の愛人に心を寄せ、庶子のニコラウスと絵を描きながら笑い合う。その切なさを、静かな筆致が丁寧に掬い上げる。派手な陰謀劇ではない。だからこそ、宮廷の空気がじわりと肌に沁みる。