概要
それは、かつての記憶。美しき音色が静かに語る、一夏の御伽噺である。
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- ★★★ Excellent!!!傷だらけのあの日々を想う。
決して、もう戻りたいとは思わないあの日々。けれど、確かにあの夏、あの場所で起こった出来事は、わたしたちをわたしたちたらしめるかけがえのない過去だった。
どうしようもなく傷ついて、ひとり啜り泣いていたあの日々を思い出す。
むせ返るような草の濃い臭い。家に帰ればタバコと酒の拒絶されたような空気がわたしたちの身体を押し返すんだ。
輝かしい日々も、ヒッチコックのようなサスペンスやアガサ・クリスティのようなミステリーもない。ニーチェやフロイトだって手を挙げる始末だ。
けれど、その苦い、苦い思い出はまるでブラックコーヒーのように惹かれる匂いをして、時たまに思い返して飲みたくなってしまう。そして顔を顰…続きを読む - ★★★ Excellent!!!静かな夏が、じわりと冷えていく――
ひとことで言うなら、静かな田舎の空気と、胸の奥を冷やすような怪異の気配が、じわじわと絡みつく物語です。
都会で夢を失いかけた記者・真那が、過去の資料をきっかけに故郷へ戻るところから物語は始まります。そこには懐かしい景色があるはずなのに、どこか現実がうまく噛み合わないような“虚しさ”が漂っていて、その静かな違和感にまず心を奪われます。
特に印象的なのは、取材対象として登場する三司祈李という少女の存在。
彼女の視点で語られる過去の夏は、眩しい青春というよりも、孤独と息苦しさの中で、音楽だけが救いになるような静かな痛みに満ちています。
そんな祈李の前に現れる、明るく距離の近い少女・澄希。
彼…続きを読む - ★★★ Excellent!!!孤独な少女を包み込む夏の出会いの物語
本作を読み、まず印象に残るのはその優しい筆致でしょう。
夏の涼しいそよ風に、孤独を与える雨。そういった夏の田舎町を丁寧に描写することで、とある少女の目線がまざまざと思い浮かべられます。
彼女は心に深い悲しみを宿しており、そんな彼女の心を繊細なタッチで描くことにより、物語の展開はより印象的に、より深みを増して展開していく。
そして彼女を捉える複数の眼差しはその少女時代を象徴的に照らし出してくれるのです。
登場人物一人一人の心にそっと触れるような形で、本作は「孤独」や「不幸」といった普遍的テーマに立ち向かう作品のように思われました。
また随所に散りばめられた異空間のような明晰夢の描…続きを読む