歴史や運命に翻弄される一人の少女。「女神」として生きさせられる閉塞感

 この切ない感覚が、どうしようもなく胸を打ちます。

 主人公の少女の名前は翠。彼女には、幼い頃から兄のように慕っていた玲という名前の少年がいた。

 でも、翠には自由がなかった。彼女の住む国には伝承があり、『瑛花』という名前の女神がいずれ少女として転生してくると言われていた。
 翠は体の特徴が伝承に出てくる内容と一致していたため、『瑛花の生まれ変わり』として祭り上げられることに。やがては皇帝である槐帝に嫁ぐことも決められていた。
 
 誰一人として、翠を翠として見てくれない。女神の生まれ変わりとしか見ず、更には彼女に手を触れたら極刑に処されることまで決まっている。
 そんな彼女の心の支えとなっていたのは、玲ただ一人だったのだが……。

 一人の人間として生きることを許されず、強い閉塞感に晒される翠の辛さが全編を通して強く伝わってきます。
 周りの人々も別に悪気はないけれど、ずっと言い伝えられてきたことだから誰も逆らうことができない。槐帝ですら翠を大事にしつつも、彼女に寄り添うことが出来ないでいる。

 そして彼女たちが迎える結末。どうなってしまうのだろうと、読み進める中で激しく心を揺さぶられることになります。
 
 悲しみや寂しさを抱えつつも強く生きようとする翠。その姿がとても鮮烈で、読み終えた後に「歴史」とか「運命」というものの存在を改めて考えさせられました。

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