触れてはいけない運命だとしても、想いは誰にも奪えない。
- ★★★ Excellent!!!
声高に語られないのに、胸の奥を確かに揺らす物語です。
本作は「女神の化身」として生きることを定められた少女・暎花と、かつて兄のように彼女を守っていた玲の、決して交わることのない想いを丁寧に描いています。
印象的なのは、悲劇性を煽らず、静かな語り口で運命の残酷さを浮かび上がらせている点です。
触れてはならない掟、名前を呼ぶことすら許されない距離。それでも、人の想いは消えない。
暎花が「女神」として生きることを選び続ける姿は、決して受動的ではありません。
誰かを守るために自分を差し出すという選択は、痛みを伴いながらも強く、気高い。
玲の無言の献身、槐帝の真っ直ぐな覚悟も相まって、物語は単なる恋愛譚に留まらず、「生き方」を描くファンタジーへと昇華しています。
なかでも、「もう思い出の中にしか、あの玲兄も私もいない」という一文は、強く心に残りました。
思い出の中にしか存在しない誰か、そして過去の自分を抱えながら、今を歩いていく。
美しい梅の香りと、翡翠の触れ合う音が聞こえてくるような、心に深く刻まれる傑作です。