2026年深山作品の集大成

言葉を選ばずにいえば、作者深山心春さまの小説は王道。そのような印象がありました。

それは決して悪いことではなく、王道を書き切れる、読者に最後まで読ませるのは作深山さまの確かな筆力に他なりません。
王道はとても難しいのです。

しかしこれは良し悪しの話ではなく傾向の話となりますが、王道というものは途中の紆余曲折を経つつもある方向へ収束していく「安心感」とトレードオフの関係で「不安感」が薄くなりがちな傾向にあります。

ところがぼくたち読者というのは強欲なもので、ときに安心感と同時に相反する不安感を求めてしまうことがあるのです。
強欲です。

前置きが長くなりましたが、当作にはそんな読者の強欲に応える物語の強さがあります。

前作『ひかりの森』からその傾向が強まってきた感覚がありましたが、おそらく時間的に今年最後になるであろう当作で一気に花開いたように感じました。

従来どおりの贅沢な安心感を損なうことなく、それでいて心地よい不安感が当作にはあります。

主人公が最後に何を選ぶのか、その一行を読むまでわからないというのは素敵な読書体験です。

どうしちゃったんでしょう。
もちろん良い意味です。
素晴らしい。

強くおススメします。