歪み、澱み、濁っていく。「流れ」を止められた家族は、ただ狂うしかない?

 澱み、歪み。そんな言葉が自然と脳裏に浮かんでくる。

 主人公である仁美たちの「末路」についてはあらかじめ提示されている。仁美と弟の賢太郎、そして両親は台風による濁流で流されて一家全滅してしまうこと。

 そんな結末に向かう前に、彼女たちには一体何があったのか。

 始まりは仁美のもとに届いた一通の手紙。離れて暮らしていた父からのもので、一軒家を買ったのでそこに戻って来るようにとのことだった。
 イラストレーターをしていたもののAIに仕事を食われて仕事に悩んでいた仁美は、父の誘いを受けて「新しい家」へと向かう。

 そこでは、確実に「何か」が歪んでいた。

 父は自分の描いた絵が評価され、高額で買い取ってくれるパトロンが現れたという。そのために家族全員が働かなくても生きられる状況が出来上がっているという。

 愚鈍な弟の賢太郎も、完全に「ダメ人間」な生活を続ける。それでも「そんな状態でも問題なく生きられる」ために、修正しなければならない事態も発生しない。

 父も、母も、どこかおかしい。いきなり自分自身の腕を折る母。やたらと家族全員一緒でいることに固執する父。
 そして、下手な漫画を描いているのになぜか有名マンガ誌での連載も決まった賢太郎。

 狂気に駆られたような状態の父に支配され、仁美は徐々に恐怖を覚えるようになっていく。


 「金があるから」ということで、「一家四人で引きこもること」が可能になった家。
 この家の中は、小さな水槽のようなものかもしれない。お金を稼いで日々の生活を続けるという、「社会とのつながり」が不要になり、「流れをせきとめられた水の中」にいるかのような感じが出る。
 流れなくなった水は、ひたすら澱み、そして濁っていく。

 本編は全体から、そんな「歪さ」がヒリヒリと漂ってきます。
 この家には一体何があるのか? 父のこの偏執的な行動の根源には何が?

 やがて見えてくる「思わぬ真相」。彼女たちに待つ「結末」さえも、場合によっては「破滅」ではなく「救い」となってしまうのかもしれない。
 そんな圧倒的な閉塞感に満たされた、強烈に心に迫って来る作品です!

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