なぜ美しい川を賛美する言葉が、こんなにも怖いのだろう

地図にない川。
誰にも秘密にしている川。
その川でのフライフィッシング。
水面の瀬音や燦き。季節の移ろい。

繰り返し綴られる美しい言葉。
リフレインされる音韻。
散文詩のような綺麗な物語。

それが2話目、3話目と続くうちに、物語は様相を変えます。
怖気が満ちるのです。

でも本当に怖いのは、書かれた言葉ではありません。
書かれるはずの言葉が無いことなのです。

人にあるべき心の動き。
それを表す言葉がないことです。

作者は言います。
最終3話まで読んだら、もう一度また1話を読んでください、と。

そうです。
1話の牧歌的な郷愁に満ちた心象風景。
それを読む者は主人公の言葉を追ううちに思うはずです。
〝そんなはずはない。こんなにも楽しそうなはずはない〟
そう思うはずです。
きっと悔悟や慚愧の言葉を探すはずです。
でもそんなものは、無いのです。

物語の中の主人公は、とても楽しそうです。ただ満足そうです。
そんな言葉だけが綴られているのです。
私は、それがとても怖いのです。

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