本作は、静かな語り口と詩的な文体によって、
読者をじわじわと内面へ引き込んでいく作品です。
物語は「川」という象徴的なモチーフを軸に進み、
回を追うごとに、その意味合いが少しずつ変質していきます。
一見すると癒しや回帰を思わせるイメージが、
いつの間にか不穏な重みを帯び、
読者の認識そのものを揺さぶってくる構成が非常に巧みだと感じました。
特筆すべきは、
美しさと歪みが常に隣り合って描かれている点です。
自然描写や比喩は繊細でありながら、
感情の流れは決して安定せず、
読む側は心地よさと違和感の間を行き来することになります。
静かで美しく、でも恐ろしい。
そんな物語をお探しの人に、ぜひ読んでほしい一編です。
全3話で構成された短編ですが、第1話での川の描写は詩的であり、とても美しい情景が目に浮かぶようです。
読んでいて、穏やかに流れる川のせせらぎや、川底で眠る魚(たち)の寝息まで聞こえてくるかのようです。その川は美しく、静謐であり神聖であり、どこまでも至純です。
皆様も是非、この美しい川をひと目見に第1話をお読みください。きっとその美しさにあなたも感動するはずです。
ただし、川底を覗いてはなりません。
どうしても底を見たいのであれば、第2話と第3話をお読みください。
美しいものを美しいままにしておきたいのであれば、おすすめはいたしません。
カーティスクリーク、その意味は心の川。誰にも秘密な彼だけの川。
あなたが思うよりも、この美しい川は深く冷たいのです。
地図にない川。
誰にも秘密にしている川。
その川でのフライフィッシング。
水面の瀬音や燦き。季節の移ろい。
繰り返し綴られる美しい言葉。
リフレインされる音韻。
散文詩のような綺麗な物語。
それが2話目、3話目と続くうちに、物語は様相を変えます。
怖気が満ちるのです。
でも本当に怖いのは、書かれた言葉ではありません。
書かれるはずの言葉が無いことなのです。
人にあるべき心の動き。
それを表す言葉がないことです。
作者は言います。
最終3話まで読んだら、もう一度また1話を読んでください、と。
そうです。
1話の牧歌的な郷愁に満ちた心象風景。
それを読む者は主人公の言葉を追ううちに思うはずです。
〝そんなはずはない。こんなにも楽しそうなはずはない〟
そう思うはずです。
きっと悔悟や慚愧の言葉を探すはずです。
でもそんなものは、無いのです。
物語の中の主人公は、とても楽しそうです。ただ満足そうです。
そんな言葉だけが綴られているのです。
私は、それがとても怖いのです。