喪失を乗り越えるまで

「無くしたもの、思い出を拾い集めながら登る」――

まさにこの一文に尽きる。

理不尽に奪われた日常、その記憶の欠片を掴みしめ、少女は登る。

海はただそこにあり、拒み、沈黙する巨大な理の象徴として立ちはだかる。
静けさと人にはなす術のない巨大な怪物のようで畏怖すら感じる表現、とてもうつくしいです。

影とのやり取りは痛ましくも温かく、読み手にも「手放すこと」の苦さと「進むこと」の尊さを深く刻む。

過去を喪ってなお歩む少女の姿が、とても胸に残りました……。

唯一無二の筆致で、とても沁みました。

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