「リンドブルム」という架空のロボットレース競技が、読み始めて数話でもう現実のスポーツのように感じられる——それがこの作品の筆力の証明です。
幼い頃に星を巡る龍を見て以来、リンドブルムレースに憑かれた少女・香月兎羽。部活がなければ作ればいい、と突っ走る彼女の熱量と、「空気を読む」という欠落を誰も真似できない武器へと昇華させる夜見との対比が、物語の核心を作っています。
町中、水中、宇宙——レースコースのスケールが広がるにつれ、キャラクターの抱える欠落と成長も深まっていく構成が見事です。233話・78万字・★1367という数字が示す通り、カクヨムのSFスポーツものの中で群を抜く一作です。
欠けた者たちが噛み合った瞬間の爆発的な熱量を感じられる作品でした。
まず、夜見の「空気を読む」能力に関してです。 序盤、彼女は自分を「中身が薄っぺらい」と評し、その処世術は弱さの裏返しに見えました。
ただ、物語が進むにつれ、それが「OOOO(ネタバレ防止)」という強力な武器へと昇華していく過程は目を見張るものがありました。
欠点だと思っていたものが、実は誰にも真似できない才能だった。これは日常社会においても、何気ないことがその人の才能である、というメッセージだと思いました。
次に良かった点は、「一人では頂点に立てない」という世界のルールです。 どれほど天才的なランナーであっても、メカニック、サポーター、チームメイトが揃わなければ勝てない。 この法則が物語にあるからこそ、欠落を抱えた者たちが補完し合って格上を食らうカタルシスがあります。 ここは読んでいて気持ちがよかったです。
最後に「負けても得るものはある。けど、勝って得るもののほうが、山ほどある」という言葉が、作中で一番好きな言葉です。 確かに負けて得るものはあるかもしれません。だけど、勝って得られるものはもっとたくさんあると思います。 ここはまさに作中に書かれている通りです。
欠けているからこそ噛み合う、そんな彼らがチームとして駆け上がる先を、見届けたいと思います。
この物語のいちばん魅力的なところは、「SF的な技術」と「青春の熱」を自然に溶け合わせている点です。
意識転送、機体レース、学園の部活動……
こうした要素は本来ハードになりがちですが、
作者は兎羽の幼少期からの感情の視点を通して、それらをとても柔らかく描いています。
現実的なハードルもきちんと描きつつ、
諦めない熱さも同時に伝わってきて、
緊張感と可愛らしさが共存しています。
世界観には厚みがあるのに、設定に押しつぶされることなくスッと読めるのも良いところ。
キャラクターの動機が明確で、会話も勢いがあり、続きが気になって思わず追いかけたくなります。
SF×青春×スポーツの熱量が好きな方におすすめです。