中華ものの作品ですが、後宮ではありません。
大きな商家を舞台としていて、まずその暮らしの解像度に驚きました。
食事、使用人の部屋、取引が行われる帳場の様子が細やかに描かれ目に浮かぶようです。
そして登場人物たちもひとりひとりが息づいています。私のお気に入りは女傑の風格がある叔母様と、その隣で一瞬ラスボスかと思わせたくせに実力は見せなかった叔父様カップルです(叔父様……まさか完全に叔母様のサポーターなのですか?)
現在文庫本一冊分程度の量で、第一章が綺麗にまとまったところ。主役の二人がそっと寄りそい始めています。繊細な二人の心の機微が伝わり、一気読みしたうえでレビューを書かせていただきました。
第二章にも期待しております!
母を失い、感情を押し殺して生きてきた春燕と、冷ややかな仮面の奥に深い優しさを秘めた大商家の若き当主・凌偉。
本作は、そんな二人が婚約という形で出会い、ゆっくりと言葉を重ねながら心を通わせていく、静かで滋味深い恋愛譚である。
派手な事件や過剰な感情表現に頼らず、視線の揺れや間の取り方、ささやかな気遣いによって関係性が進んでいく描写が非常に丁寧で、読者は自然と二人の距離の変化を追体験することになる。
春燕の愛らしさは健気さだけではなく、長く耐えてきた時間の重みから滲み出るものであり、凌偉の寡黙さもまた誠実さの裏返しとして一貫して描かれる。
そのため、わずかな優しさや歩み寄りが強く胸を打つ。
傷を抱えた者同士が、相手を通して少しずつ互いの手をゆっくりと取り合い温かさを取り戻していく過程は、恋であると同時に救済の物語でもある。
中華風世界観の落ち着いた情緒と相まって、読後には穏やかな温もりが静かに残る一作だ。
静かな二人の恋を見守るのが私の癒しになっています。