作者性が静かに殺される現代を映す、鋭い風刺ホラー短編の傑作

本作は、創作の根幹である「作者性」が静かに解体されていく恐怖を、過剰な説明を排しつつ描き切った秀逸な風刺ホラーである。

作家の早川氏の文体がAI化され、本人の抗議が「文体は誰のものでもない」という無慈悲な回答によって無力化される過程は、現代の技術倫理と資本論を鋭く突く。

怪異や流血に頼らず、創作者が社会的に“不要”へと追いやられていく過程そのものを恐怖として成立させている点が際立っている。市場に溢れる「早川風小説」は、模倣の完成度が高いほど作者の存在を希薄化させ、読者までも無自覚な加害者として組み込んでいく。

怖いのはAIだけではない。
便利さを理由に判断を放棄する人間、作者の不在を平然と受け入れる市場、「それっぽい」で満足してしまう読者、そして置き換え可能であることを疑わなくなる社会。

そのすべてが、この物語の背後で静かに蠢いている。

AIは怪物ではなく、露骨な鏡に過ぎない。
そこに映っているのは、「誰が書いたか」を気にしなくなった私たち自身だという著者の皮肉が、読み終えた後に確実に効いてくる。

即効性の快楽ではなく、読後にじわじわと効いてくる冷たさが、本作を単なる風刺では終わらせない。読み手の価値観に静かに爪を立て、簡単には忘れさせない強度を備えた短編である。

この怖さは、感じ続けたほうがいい種類のものだ。

感じられるうちは、まだ書き手は“不要”になっていないのだから。

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